土壌や水系などの環境常在菌である非結核性抗酸菌(non tuberculous mycobacterium:NTM)の経気道感染により発病するが,感染と発病の関係は不明である。通常,ヒトからヒトには感染しない。国際的にも漸増しており,2014年のわが国の罹患率は人口10万対14.7で,排菌を認める肺結核を凌駕している。わが国では年間約1500例が本症にて死亡している。東アジアに多く,わが国の肺非結核性抗酸菌症の罹患率は世界的にも最も高い。
患者の多くは中高年で全体的には女性に多いが,男性に多く結核に類似する線維空洞型(30~40%)と,痩せ型の喫煙歴のない中高年女性に多い結節・気管支拡張型(60~70%)がある。菌体成分に対する細胞性免疫反応が病態の本質であり,結核に類似した類上皮細胞性肉芽腫を形成する。再感染もあり,治癒はないと考えられる。原因菌の約90%はMycobacterium avium complex(MAC,東日本に多いMycobacterium aviumと西日本に多いMycobacterium intracellulareの総称)で,Mycobacterium kansasii,Mycobacterium abscessus complex(遺伝子解析により分類されるM. abscessus,M. massiliense,M. bolletiiの3亜種の総称)が数%ずつを占める。
特徴的な兆候はない。軽症例,高齢者では自覚症状の乏しいことが多いが,血痰で発見されることもある。胸部画像では上葉の空洞,中葉,舌区の気管支拡張像を認めるが,単純X線では判別が難しく,胸部CTを要する。診断には,本疾患に相当する画像所見に加えて,喀痰の抗酸菌培養検査にて複数回あるいは気管支鏡検査にて病巣から採取した気管支洗浄液の培養検査にて菌が検出されれば診断は確定する。検体から核酸増幅法にて陽性になっても診断的意義はない。喀痰がない場合には高調食塩水(3%)吸入による喀痰誘発を行う。胃液による菌検査は診断的意義はない。画像所見で本症が疑われる場合には,喀痰培養を続ける。MACの細胞壁の構成成分であるglycopeptidolipid(GPL)に対するIgA抗体はMAC症の補助診断になる。結核を否定できない場合には,診断が確定するまで患者はサージカルマスクを,医療者はN95マスクを着用する。
診断が確定しても,治療の要否については年齢,病型,病変の広がり,菌種,排菌量,などにもとづき,症例ごとに判断する。基本は多剤併用化学療法である。肺MAC症の初回治療ではクラリスロマイシン(CAM),リファンピシン(RFP),エタンブトール(EB)を基軸とし,空洞を伴う場合にはアミカシン(AMK)を加える。CAMおよびAMK以外の薬剤については,薬剤感受性試験の臨床的意義は不明である。肺M. kansasii症,肺M. abscessus complexは診断がついたら原則的に治療を行う。
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