尿膜管は,胎生期に膀胱頂部と臍部をつなぐ管腔で,出生後は自然閉鎖して正中臍索となる。この退縮過程が障害され尿膜管内腔が閉塞し,粘液貯留により囊胞状に拡張した病態が尿膜管囊胞である。成人の約0.06%に認められ,好発部位は臍側である1)。通常は無症状であるが,感染を合併すると臍部からの排膿,腹痛,発熱を呈する。
この残存尿膜管から発生するがんが尿膜管腫瘍である。組織学的には腺癌の頻度が90%と最も高く,粘液性腺癌がそのうち70%を占める。ほとんどが膀胱頂部に発生し,全膀胱癌の0.5%以下と非常に稀な腫瘍である。症状の多くが血尿や膀胱刺激症状であるが,腫瘍が膀胱外部に発育するため症状に乏しく,発見時は既に進行している場合が多い。通常の膀胱癌より局所浸潤傾向が強く,術後局所再発が40%と高率に認められ,局所浸潤がんの5年生存率は20~40%と予後不良であることから,注意深い経過観察が必要である。
画像診断にはMRIやCTが用いられ,特に矢状断では病変と尿膜管との関係が明瞭となるため,非常に有用である。
尿膜管腫瘍の診断基準は,①膀胱頂部に発生,②膀胱筋層から膀胱外への進展が優勢,③隣接する囊胞性膀胱炎がない,④腺癌の原発臓器がない,とされる2)。尿膜管腫瘍は,正中線上の臍と膀胱頂部の間に不整形で内部不均一な腫瘤を認め,90%は膀胱頂部に病変を認めることから,膀胱鏡は重要な検査である。膀胱頂部に限局性病変を認めた際には,経尿道的膀胱腫瘍切除術(transurethral resection of the bladder tumor:TUR-BT)によって病理組織学的診断を行う。腫瘍マーカーではCEA,CA19-9が40~60%で上昇する。
無症状の小囊胞であれば,経過観察が可能である。感染を併発した場合は,排膿および抗菌薬の投与を行う。高頻度に感染が再発するため,炎症が収まった時点で尿膜管摘除を施行する。これまで,臍から恥骨までの下腹部正中切開による開腹手術が施行されていたが,2014年から腹腔鏡下尿膜管摘除術が保険適用となった。尿膜管の周囲には,重要臓器や大血管はなく,手術手技は容易である。尿膜管遺残は若年者に好発する良性疾患であり,低侵襲性や整容性に優れた本術式は良い適応である。同術式は,臍からアプローチを行う単孔式手術に発展し,従来法よりも整容性が高いことが報告されている。
遠隔転移を認めない場合は,完全切除をめざして手術が行われるが,局所浸潤傾向が強いため,膀胱部分切除だけでなく残存尿膜管や近接する腹直筋後鞘,腹膜の一部を含めた一塊切除が必要になる。なお,膀胱全摘と部分切除では予後に差がなく,膀胱全摘は過剰医療となる可能性が指摘されている3)。部分切除により膀胱機能を温存できる場合が多いが,断端陽性となると再発の危険性が高くなるため,膀胱内に広く進展している場合には,膀胱全摘除および骨盤リンパ節郭清が必要となる。転移症例や術後再発症例に対しては化学療法が行われる。標準的治療はなく,消化器癌で使用するフルオロウラシル(5-fluorouracil:5-FU)やシスプラチンを含む併用療法が行われてきたが,その奏効率は33%と低い。
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