二次的原因(高血圧,大動脈弁狭窄症など)がなく,心筋肥大を呈する遺伝性疾患である。診断においては,心筋肥大を呈する二次性心筋症の存在を否定することが重要である。
心臓超音波もしくは心臓MRI上,左室壁厚が15mm以上もしくは肥大型心筋症の家族歴を有する症例は13mm以上を呈し,二次的原因や二次性心筋症の存在が否定されれば,肥大型心筋症と診断する。上記壁厚を有し,心筋収縮単位であるサルコメアの遺伝子異常が確認されれば診断確定となるが,遺伝子異常の確認は診断において必須ではない。
大部分の症例は無症候であり,無症候の場合は,原則として薬物療法の適応にはならない。ただし,無症候か否かの判断は経過が長期に及んでいる症例が多いため,慎重に行う。治療方針を考える上で以下の4点につき考慮する。
①突然死:若年症例や遺伝的背景が濃厚な症例においては,最初の臨床イベントが突然死であることも多く,無症候と判断しても一次予防としてのICD(植込み型除細動器)の適応につき検討しなければならない症例も存在する。
②心不全:息切れ,全身倦怠感などの症状に対しては,第一選択薬としてβ遮断薬が選択される。非閉塞性か閉塞性か,および左室駆出率低下の有無(拡張相肥大型心筋症か否か)により,選択される薬剤が若干異なる。
③不整脈:特に心房細動および心室性不整脈(非持続性あるいは持続性心室頻拍)を合併した場合に薬物療法,および薬物療法抵抗性の場合はカテーテルアブレーションあるいはICDが選択される。動悸などの症状に対しては,β遮断薬やカルシウム(Ca)拮抗薬が選択される。心房細動に対する薬物療法(洞調律維持を目的)としては,アミオダロンあるいはI群抗不整脈薬が選択され,血栓塞栓症予防として抗凝固薬内服は必須である。
④閉塞性肥大型心筋症:左室内に有意な圧較差を有する症例(圧較差が30mmHg以上)は,肥大型心筋症の70%程度を占める。有症候の場合は圧較差,特に左室流出路圧較差を減少させるための治療として,β遮断薬,Ca拮抗薬,シベンゾリンまたはジソピラミドなどの薬物療法が選択される。血管拡張作用のある薬剤や陽性変力作用のある薬剤の使用は禁忌である。
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