冠動脈が閉塞もしくは相対的虚血で心筋壊死を起こすものを心筋梗塞というが,そのうち心電図にて急性期にST上昇所見を伴うものを,ST上昇型急性心筋梗塞(ST elevation myocardial infarction:STEMI)と分類する。発症24時間以内の急性期死亡が多いので,救命のため緊急対応を要する。
典型的な胸痛に,心電図にてST上昇所見が複数誘導で認められ,かつ心筋トロポニンもしくはクレアチンキナーゼ(CK)の上昇を伴えば診断できる。緊急対応の重要性から,胸痛と心電図でのST上昇のみでトロポニンの結果を待たずに治療を開始することが推奨されるようになった。
STEMIに対し,最も救命率の高い治療法は,冠動脈インターベンション(PCI)をできるだけ早く行うことである。以前は,組織型プラスミノーゲンアクチベータ(tPA)を用いた血栓溶解療法が行われたが,無作為試験の結果,PCIのほうが死亡率低下,再開通率などすべての面で優れていることがわかり,tPAを用いずに直ちにPCIを行うprimary PCIが最適な治療法として確立された。さらにPCIは,橈骨動脈アプローチで行う方法(TRI)が大腿動脈アプローチ(TFI)よりも死亡率が低く,熟練した術者がTRIで行うことが推奨されている。
病院のドアを通過してから再開通までの時間は90分以内が推奨されており,保険点数も高いため,ST上昇を見たらなりふり構わず心臓カテーテル室へ患者を運ぶのが正しい医療となっている。しかしながら,病院へ到着してからの虚血時間短縮のみではまだ不十分であり,発症から再開通までの時間の短縮が望ましい。ところが,時間のロスの最大の原因として,本人が我慢してしまうことや,医師が心電図をとらないこと,たとえ心電図をとってもST上昇を認知しない医療者による時間のロスも無視できない。さらに,PCI施設までの搬送時間が都市部と非都市部では明らかに異なる。さらにprimary PCIが広く行われる地域と,そうでない地域があり,その施行率はSTEMIの死亡率に関わっている。これらの問題は社会全体の問題であり,今後改善の必要があろう。
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