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胎児水腫[私の治療]

No.5014 (2020年05月30日発行) P.44

笹原 淳 (大阪府立病院機構大阪母子医療センター産科副部長)

石井桂介 (大阪府立病院機構大阪母子医療センター産科主任部長)

登録日: 2020-06-02

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  • 胎児水腫は,腔水症と皮下浮腫を特徴とした重篤な胎児疾患である。原因により免疫性(血液型不適合)とそれ以外の非免疫性に分類される。胎児水腫の約9割が非免疫性であり,そのうち明らかな原因(ヒトパルボウイルスB19などのウイルス感染,胎児腫瘍性病変,胎児不整脈,双胎間輸血症候群の受血児,胎児心臓構造異常,染色体異常など)が不明な特発性胎児水腫が最も多い。胎児水腫症例において,妊娠30週未満に出生した場合の児の予後はきわめて不良である。また,胎児心臓構造異常(エプスタイン病など)を背景とした胎児水腫症例は,出生週数にかかわらず生命予後は不良である。

    ▶診断のポイント

    超音波断層法により,胎児胸水・腹水,皮下浮腫,心囊液,羊水過多,胎盤肥厚のうち,2つ以上の所見を認める場合に診断される。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    免疫性胎児水腫やウイルス感染に起因した胎児水腫では,胎児赤血球に対する母体抗体による溶血反応や,造血細胞への直接障害によって,胎児貧血をきたすことが直接的な原因である。血液型不適合妊娠やヒトパルボウイルスB19感染による胎児貧血に起因する胎児水腫の場合には,臍帯穿刺(胎児採血)により胎児貧血を確定した場合には胎児輸血が考慮される。仙尾部奇形腫などの腫瘍性病変が存在する場合,腫瘍を栄養するために血液量が増加し,高拍出性の心不全,循環不全の状態に陥ることが胎児水腫の原因と考えられている。明らかな腫瘍性病変を認める胎児水腫症例においては,有効性が証明された胎児期の治療方法はない。胎児頻脈性不整脈に起因した胎児水腫では,抗不整脈薬の母体投与により,胎児の心室レートを改善することで胎児水腫の改善が期待できる。双胎間輸血症候群で受血児に胎児水腫を認める場合には,胎児鏡下レーザー治療が第一選択である。特発性胎児胸水によって肺低形成が危惧される場合には,超音波ガイド下の胎児胸水除去を考慮する。胸水除去後に胸水の再貯留を認める場合には,持続的に胸水を羊水腔内にドレナージするための胎児シャント(胸腔羊水腔シャント)術が行われている。また,羊水過多による切迫早産徴候による母体の腹部膨満感が強い場合には,妊娠継続と苦痛の除去を目的とした羊水除去を行う。

    これらの疾患は稀であり,診断が困難な場合がある。また,胎児治療は手技の特殊性が高く,治療経験が豊富な高次医療施設での管理が望ましい。

    胎児水腫症例を管理するにあたっては,可能な限り妊娠継続を図ることで児の未熟性を改善し,新生児集中治療にスムーズに移行できるようにすることが原則である。実際には,施設の方針に基づいて,胎児状態に応じた娩出時期と分娩方法を選択することになる。

    胎児水腫に関連する重篤な母体合併症としてミラー症候群がある。これは,胎児水腫を呈している児と同様に,著明な浮腫,胸水・腹水などの徴候が母体にも出現する病状である。重症高血圧,蛋白尿,肺水腫などを呈することがあり,注意を要する。ミラー症候群と診断された場合には,原則として早晩の妊娠終結を考慮する。

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