内ヘルニアはSteinkeにより,体腔内の異常に大きい陥凹,窩,裂孔の中に臓器が嵌入する状態と定義されている。発生する部位により,後腹膜陥凹部へのヘルニア(腹膜窩ヘルニア)と,解剖学的な異常裂隙へのヘルニア(異常裂孔ヘルニア)とに分類される1)。腸管の嵌頓に伴う絞扼性イレウスの状態で発見されることが多く,迅速な対応が重要である。発生部位による頻度順に,腸間膜裂孔ヘルニア(40%),傍十二指腸ヘルニア(24%),盲腸・S状結腸間膜窩ヘルニア(9%),大網裂孔ヘルニア(9%),子宮広間膜裂孔ヘルニア(4%)である2)。
腹痛,悪心・嘔吐,便やガスが出ないという腸閉塞症状が典型的である。絞扼した腸管を腫瘤として触知することもある(Wahl徴候)。腸管の嵌頓により血流障害が起こると,高度な腹痛,発熱,腸雑音の減弱,腹膜刺激徴候といった腹膜炎症状をきたし,また,敗血症に進展しショック状態に陥ることもある。
血液生化学検査として,まず白血球やCRPの上昇が認められる。壊死に至ればLDHやCPK,乳酸の上昇やアシドーシスの進行を認める。敗血症に至ると,白血球の低下や播種性血管内凝固症候群(DIC)の所見として血小板減少やFDPの上昇,プロトロンビン時間の延長が認められる。
画像検査として腹部単純X線写真での鏡面形成像を認めることもあるが,拡張腸管内に腸管内容液が充満していて無ガス像を呈することもある。超音波検査では腸管拡張像や腹水貯留の所見を認める。最も診断に有効なのが腹部造影CT検査である。拡張した嵌入腸管の集簇像,囊状像を認める。closed loopを形成していることが多く,それを丁寧に追ってヘルニア門を確認することで診断可能なことが多い。また,腸管壁の造影効果の減弱や腸管気腫像,血性腹水の貯留を疑うCT値が高値な腹水を認めれば,絞扼を疑い早期に手術を行う。
治療の基本は手術である。まず,腸管の虚血や壊死を疑う所見が少しでもあれば緊急手術を行う。その場合,腸管の拡張が強いことが多く,基本的には開腹手術を選択する。
腸管の虚血や壊死を疑う所見がなければ,イレウス管を挿入し1~2日間,減圧を図り待機的手術を行う。減圧が有効であれば,腹腔鏡手術の適応となる。
内ヘルニアは稀にヘルニア門からの脱出の場合もあり,診断に迷うことも多い。しかし,保存的治療に固執することで腸管壊死からの腹膜炎,敗血症へと至り重篤化することもある。そのため,画像診断で内ヘルニアを疑った場合は,手術のタイミングを逃さないことが重要である。
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