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肺血栓塞栓症[私の治療]

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  • ▶治療の実際

    【急性肺血栓塞栓症(APTE)の抗凝固療法】

    未分画ヘパリンとワルファリン,および新しい抗凝固薬フォンダパリヌクスおよび直接作用型経口抗凝固薬(direct oral anticoagulants:DOACs)エドキサバン,リバーロキサバン,アピキサバンなど,死亡リスクに応じて適正治療を選択する。評価には簡易PESI(pulmonary embolism severity index;年齢>80歳,がんの既往,心肺疾患の既往,脈拍>110回/分,収縮期血圧>100mmHg,SaO2>90%,各1点とし合計6点)を用いる。この簡易PESIは,発症30日後の予後をスコアリングしている。0点は低リスク群,1点以上で中リスク群となり,ショックを呈する症例は高リスク群となる。中リスク群において,画像による右室機能不全およびトロポニン・BNP陽性所見をともに有する場合,中~高リスク群となる。それ以外は低~中リスク群となる。

    〈低リスク群および低~中リスク群〉

    ①~⑥のいずれかを選択する。⑤の場合は①または②を数日間使用後,⑥の場合は①または②と同時あるいは1~3日後に開始する。低リスク群では,③または④による初期外来治療が可能である。

    ①ヘパリンNa注(禁忌のない限り疑い時点で)5000単位または80単位/kgを単回静脈投与。その後時間当たり1300単位,または18単位/kgを持続静注し,活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)を1.5~2.5倍に維持

    ②アリクストラ®注7.5mg(フォンダパリヌクス)体重50~100kg:7.5mgを1日1回(皮下注)

    ③イグザレルト®15mg錠(リバーロキサバン)1回1錠1日2回を3週間,その後1回1錠1日1回

    ④エリキュース®5mg錠(アピキサバン)1回2錠1日2回を1週間,その後1回1錠1日2回

    ⑤リクシアナ®30mg・60mg錠(エドキサバン)体重60kg以下:1回1錠(30mg錠)1日1回,体重60kg超:1回1錠(60mg錠)1日1回

    ⑥ワーファリン1mg錠(ワルファリン)1回1~5錠1日1回,PT-INRが1.5~2.5になるよう増減

    ヘパリン投与中は,合併症としてヘパリン起因性血小板減少症(heparin-induced thrombocytopenia:HIT)があり,注意が必要である。リクシアナ®は初期治療後の使用が原則となる。治療継続期間は,術後症例など危険因子が可逆的である場合最低3カ月,特発性の静脈血栓塞栓症では少なくとも6カ月,先天性凝固異常症や危険因子が長期にわたり存在する症例,がん患者や複数回の再発症例は無期限となる。

    〈高リスク群および中~高リスク群〉

    高リスク群では,禁忌例を除いて抗凝固療法と血栓溶解療法を併用する。中~高リスク群では抗凝固療法のみ,あるいは抗凝固療法と血栓溶解療法を併用する。初期治療完成後は〈低リスク群および低~中リスク群〉の治療を行う。しかし,血行動態が安定した右心機能不全に対する血栓溶解療法はルーチンに行わず,出血リスクが低い若年者や,抗凝固療法を開始するも循環動態が悪化する徴候がみられる場合に考慮する。

    一手目 :〈低リスク群および低~中リスク群〉の①

    二手目 :〈一手目に追加〉クリアクター®注40万IU・80万IU・160万IU(モンテプラーゼ)1回1万3750~2万7500IU/kgを,8万IU/mLとなるように生理食塩水で溶解し,10mL(80万IU)/分でボーラス静注

    【慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)の治療】

    まず,唯一の根治治療である肺血栓内膜摘除術の適応を考慮する。非手術適応例,手術のリスクを許容できない例,術後残存肺高血圧例では,バルーン肺動脈形成術や選択的肺血管拡張薬であるアデムパス®(リオシグアト)を使用する。

    一手目 :アデムパス®0.5mg・1.0mg・2.5mg錠(リオシグアト)通常,成人にはリオシグアトとして1回1.0mg 1日3回から開始。2週間継続して収縮期血圧が95mmHg以上で低血圧症状を示さない場合には,2週間間隔で1回用量を0.5mgずつ増量するが,最高用量は1回2.5mg1日3回までとする

    【文献】

    1) 日本循環器学会, 他:肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断, 治療, 予防に関するガイドライン(2017年改訂版). 2018.
    [http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2017_ito_h.pdf]

    坂尾誠一郎(千葉大学大学院医学研究院呼吸器内科学准教授)

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