肛門管内の歯状線上に存在する肛門陰窩から侵入した細菌が,肛門括約筋間の肛門腺に感染して肛門周囲膿瘍を発症する(cryptoglandular infection theory)1)。肛門周囲膿瘍は下方の肛門周囲間隙へ広がり,低位筋間型の単純な痔瘻となることが多いが,左右の坐骨直腸窩や高位筋間へ伸展して複雑痔瘻になることもある2)3)。女性よりも男性に多く,20~50歳代に好発する。
初期(肛門周囲膿瘍の時期)の主な症状は腫脹と疼痛(持続的)であり,時に発熱を伴うことがある。膿瘍が自壊,または切開処置をすると排膿する。痔瘻の時期の自覚症状としては,硬結と少量の排膿がみられる。
肛門診察時には肛門周囲にある二次口を視認し,そこから肛門管へ向かう瘻管を触診する(図1)。
複雑痔瘻では瘻管を触知できないことが多いが,恥骨直腸筋が硬化している場合は,坐骨直腸窩痔瘻を疑う。
肛門鏡では痔瘻の一次口を診断することは難しいが,併存する肛門疾患を確認できる。多発する二次口や浮腫性のスキンタッグを伴う痔瘻はクローン病を疑う(図2)4)。
肛門周囲膿瘍を診断したら,まずは切開排膿の処置を行う。痔瘻根治術は,膿瘍期の炎症が消退してから行う。
前方や側方の痔瘻(特に女性)に切開開放を行うと括約筋不全をきたしやすいので,できるだけ括約筋温存術式をとる。また,クローン病や潰瘍性大腸炎が疑われる場合はドレナージシートン術にとどめ,肛門括約筋は切開しないようにする。
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