食道穿孔・破裂は文字通り,食道に何らかの力が加わり穴があく,もしくは圧力が加わり裂創ができる状態(全層性)を指す。原因により特発性,医原性,外傷性,異物性,化学的,食道疾患によるものに分類される。この中で最も多いのは医原性の食道穿孔(59%)で,ついで特発性(15%),異物性(12%),外傷性(9%)であり,手術(2%),腫瘍性(1%),その他(2%)との報告がある。日常臨床ではあまり頻度の高い病態ではないが,食道は解剖学的に縦隔に位置しているため,発症して空気や内容物が漏れ出すと,縦隔炎から膿胸,敗血症と急速に重篤な病態に進展していく危険性がある。すなわち,保存的治療で軽快する病態から,緊急手術を要する縦隔炎,膿胸を併発して長期入院を要したり,不幸な転帰をとることもある。
最も多い医原性の食道穿孔の原因は,内視鏡手技(ESD,ステント挿入など)である。異物による穿孔は,有鉤義歯,魚骨,PTP(press-through-pack)包装などがある。異物による直接な損傷ばかりでなく,内視鏡的に異物除去を行っている際に起こすこともある。いずれも他の原因に比べて小穿孔で,複数のこともある。
特発性の食道穿孔は,器質的な疾患のない健常な食道に突発的な内圧の上昇が起こり,食道(全層性)が破裂,穿孔が発生する病態である。1724年Boerhaaveにより報告された比較的稀な疾患である。誘因の70%は飲酒後の嘔吐とされ,30~50歳代の男性に多いと言われる。好発部位は,圧力がかかりやすい胃・食道接合部から下部食道左壁である。これは,下部食道の壁の筋層が胃の筋層に比べて薄いこと,輪状筋の櫛状欠損,神経血管が壁外から入ってくるために先天的に脆弱な部分となっていることによる。加えて,解剖学的特徴として下部食道左壁のみ,心臓・血管・椎体という支持組織を欠損していることも原因と考えられている。また,20~30歳代の男性では,好酸球性食道炎が原因となることがある。
これらの病態は,早期診断・早期治療がきわめて重要で,治療が遅れれば,感染症(縦隔膿瘍,膿胸)により重篤な病態に進展し,予後不良となる。救急外科領域の重要疾患として認識しておく必要があり,他の胸腹部疾患との鑑別が重要である。救命率は,早期に診断され手術を含む積極的介入で90%を超えるものの,治療まで12時間以上を要した症例の致死率は50%を超えると言われている。
症状だけでは食道穿孔の確定診断は困難であるが,嘔吐(84%),胸痛(79%),呼吸困難(53%),心窩部痛(47%),皮下気腫(30%),嚥下困難(21%),吐血,ショックなどの症状が認められる。心拍動に同期する捻髪音(mediastinal crunch,Hamman徴候)が聴取されることがある。胸痛,嘔吐,皮下気腫(Macklerの三徴)が同時に認められるときは,特発性食道破裂を強く疑ってよい。
医原性の食道穿孔は,治療中に病態を認識している場合がほとんどで,すぐに治療が行われるため,症状の徴候は明確でないと思われる。
前述した症状に加えて,水溶性造影剤による食道造影(必須)にCT検査などを組み合わせることにより,確定診断が可能である。
血液生化学的検査:白血球(好中球)上昇,CRP上昇が認められる。
胸部・腹部X線:皮下気腫,縦隔気腫,胸水,気胸などが認められる。
胸腹部CT(造影):上記所見に加えて縦隔炎,縦隔気腫,胸水,胸膜下膿瘍,胸膜下液体貯留が認められる。異物,ごくわずかな遊離ガス,胸水も描出可能である。
食道造影(水溶性造影剤):きわめて有効な確定診断方法である。造影剤による穿孔部位の漏出による検出感度は,頸部で50%,胸部で75~80%程度で,穿孔部位の同定が可能である。
胸水穿刺:胸水貯留例である場合,食物残渣の存在,pH<6,S型アミラーゼの上昇は,食道破裂を強く示唆する所見である。
CT検査,食道造影の所見より,穿孔部位の位置,大きさ,穿破の方向,さらに食道内容,造影剤が縦隔内にとどまっているか(縦隔限局型),胸腔内に漏出しているか(胸腔内穿破型)を確認する。これらの所見により保存的療法が可能かどうか,手術療法の選択となった場合は,開胸開腹アプローチ方法などの治療方針決定に関して重要な情報となりうる。
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