典型的な通常型心房粗動は,心電図上鋸歯状波を示し,三尖弁輪周囲を旋回するリエントリー回路を有する心房性頻拍である。心房細動アブレーション後に出現し,異なる回路を持つ頻拍も,非通常型心房粗動として最近増加しつつある。
心電図でⅡ,Ⅲ,aVFにおいて鋸歯状波を有すれば,通常型心房粗動と診断できる。三尖弁輪を反時計回りに旋回するリエントリー回路を持つ。三尖弁輪を時計回りに旋回するものや,僧帽弁輪など左房に回路を持つものは,心電図診断で鑑別され,非通常型心房粗動とすることが多い。心房細動の合併例や,心房細動に対する薬物治療後に発生することも多い。心房細動の有無をホルター心電図で確認することが望ましい。
合併症である心原性血栓塞栓症の予防と,心房粗動そのものへの治療の2つの面から考えていく。
心房粗動による血栓塞栓症のリスクは,心房細動と同等と言われており,心房細動と同様,CHADS2スコア,もしくはCHA2DS2-VAScスコアに基づいて抗凝固療法を行う。ただし,心房細動に広く使用されている直接経口抗凝固薬(DOAC)は,心房粗動には保険適用がない。
次に,洞調律に回復させるのか(リズムコントロール),心房粗動の停止をめざさず心拍数を抑えるのか(心拍数コントロール)を検討する。治療方針は,心電図波形にはよらない。急ぎ停止を考える必要があるのは,次の3つの場合である。①症状が強い,②心不全を合併している,③低心機能例で血行動態を維持できない。この3つの要素がなければ軽症であり,心拍数コントロールで経過観察が可能である。心拍数コントロールを行う場合には,Ca拮抗薬,β遮断薬,ジギタリスのいずれかを選択する。通常型心房粗動に対しては,アブレーション成績は90%を超えることから,長期的にはアブレーションを検討する。
洞調律回復が望ましい場合,心房粗動に対する抗不整脈薬による停止効果は高くなく,むやみに薬剤を増量しても無効であるばかりか,心不全増悪などをまねくこともある。血行動態の維持が困難な重症例で,心拍数コントロールが難しければ,急ぎ電気ショックによる停止を試みる。3週間以上の抗凝固療法が行われていない場合には,経食道心エコーで血栓の有無を確認することが望ましい。再発する場合には,専門施設に紹介の上,アブレーションを検討する。
薬剤により頻拍が停止した際に,洞停止や洞徐脈になることがある。ふらつきや失神を認めたら,内服を中止し,来院するように患者に伝えておく。また,活動性の出血がある場合は,抗凝固療法は禁忌である。詳細な病歴聴取が必要である。顕在性WPW症候群が合併している場合,房室結節を抑制する薬剤は無効であり,使用すべきでない。
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