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「無診察治療等の禁止」は遵守されているか?

No.5035 (2020年10月24日発行) P.46

柳井圭子 (日本赤十字九州国際看護大学看護学部教授)

登録日: 2020-10-27

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新規採用した医療福祉事務学科卒業の職員は,医師法第20条に論拠するとして,「診察せずに薬の処方をすることはできません」と,薬の処方のみを希望した患者からの要請は,数カ月ごとに診察を受けていてもすべて断ります。同様に急な往診依頼の場合でも,「医師不在なら休診とするしかありません」,特定疾患療養管理料は「薬の処方のみでは算定できませんし,診察をしないと処方はできないので算定は不正です」と言います。
法律は遵守しつつ医療を行うべきなのは理解できますが,実情はどうなっているのでしょうか。また,実際どうすればよいでしょうか。

(岡山県 N)


【回答】

【現実には無診察を思わせる事案も少なくない】

保険診療は,健康保険法等の各法に基づく保険者と保険医療機関との公法上の契約です。保険診療では,保険医が保険医療機関において健康保険法,医師法,医療法等の各種関係法令,療養担当規則の規定を遵守しなければなりません。医師法第20条「無診察治療等の禁止」は,適切な医療がなされることを期待したものです。保険診療では,「実際には診察を行っていても,診療録に診察に関する記載が全くない場合や,『薬のみ』等の記載しかない場合には,後に第三者から見て無診察治療が疑われかねない」1)ので,診察を行っているのであれば,診療録に十分記載する必要があります。このような指摘がなされており,現実には無診察を思わせる事案も少なくないのでしょう。

しかし,本条に違反した医師は50万以下の罰金に処せられます(第33条の2)。そのため本条は,どの程度行うのか,次の診察までの期間をどう決めるのか等について検討されてきました。診察した際,将来の病状まで判断し一定期間連続して数回一定の薬剤を授与する計画を定め治癒した(大審大3.3.26),従前の診察の結果,患者の要望,看護師の報告等に基づいて治療した(大阪高判昭59.8.16)などは無診察治療とは言えないこと,医師が患者を治療後,数カ月治療を中断した後にあらためて診察することなく初回の診察と同一の薬剤を交付することは違法(名古屋区判大3.9.4)等の裁判例があります。

そもそも診察とは,「問診,視診,触診,聴診その他手段の如何を問わないが,現代医学から見て,疾病に対して一応の診断を下し得る程度のもの」〔1997(平成9)年12月24日健政発第1075号〕であり,無診察かどうかは患者の状態や年齢,前回の診察時からの時間的経過,従来からの医師との関係その他の事情を考慮して判断されます。診療録に記載された判断は,その根拠とともに検証されます(保険診療では減点査定)。

医師不在については,医師が離れた場所でも診察できる手段となる情報通信技術を用いたオンライン診療について記しておきます。2018年,オンライン診療のルールが整備されました2)。遠隔診療では,対面診察に替わりうる程度の情報を得ることによって診療を行うことが条件です。オンライン診療も同様です。2020年,新型コロナ感染症対策(閣議決定)で,対面と同等の情報を得られなくても,また初診でも電話や情報通信機器を用いた診療による診断や処方を行うことが認められました。もっとも患者のなりすましや虚偽の申告を防ぐ必要がありますので,本人確認と診断・投薬等に必要な情報を得ることが求められます3)

なお,本件のご質問は,職員による問題提起であることに意義があります。法令を適切に理解していなければ,遵守しようにも互いにずれが生じます。今回,質問者は職員の意見を尊重し,他者の意見を得ようとしています。このような姿勢がリスクを回避することにつながるでしょう。

【文献】

1) 厚生労働省保険局医療課医療指導監査室:保険診療の理解のために. 2018.
[https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/dl/shidou_kansa_01.pdf]

2) 厚生労働省:オンライン診療の適切な実施に関する指針. 2018.(2019年7月一部改訂)
[https://www.mhlw.go.jp/content/000534254.pdf]

3) 厚生労働省:新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取り扱いについて. 2020.
[https://www.mhlw.go.jp/content/R20410 tuuchi.pdf]

【回答者】

柳井圭子 日本赤十字九州国際看護大学看護学部教授

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