胃切除後症候群とは,胃切除後の機能的,器質的変化によって発症する様々な症状の呼称であり,診断や治療はそれぞれの病態に応じて異なる。
胃切除術後に,胃の貯留機能低下によって食物が十二指腸,小腸に急速に流入することにより生じる障害である。「早期ダンピング症候群」は高張な食物が急速に小腸に流入し,消化管の急激な拡張,腸の細胞外液が腸管内へ大量に移動することで,循環血漿量の減少と,消化管ホルモンの亢進を促す。症状としては食後30分以内に冷汗,動悸,めまい,腹痛,悪心を生じる。「後期ダンピング症候群」は炭水化物の急速な小腸への流入により,短時間で糖分が吸収され食後血糖値が急上昇した結果,インスリンが過剰分泌され一過性の低血糖を発症する。症状としては食後2~3時間後に,発汗,脱力感,めまいを生じる。早期,後期ともに,食事摂取に伴う症状出現に関する問診が重要となり,血糖値測定が有用である。
胃切除により,逆流防止機能の欠落による胃液,十二指腸液,膵液の逆流によって炎症が生じる。残胃炎は,胆汁を含む十二指腸内容の残胃への逆流が原因となり,腹痛,嘔気,食思不振を生じる。また,術後逆流性食道炎は,下部食道括約筋の機能障害にて,食道に胃酸が逆流することで食道粘膜に炎症が生じ,胸痛,胸焼け,咽頭違和感,慢性咳嗽を認める。
胃切除後には,鉄の吸収障害による鉄欠乏性貧血(術後数カ月後)とビタミンB12の吸収障害による巨赤芽球性貧血(術後4~5年後)を認めることがある。鉄欠乏性貧血は舌炎,口角炎,舌の萎縮,さじ状爪等を生じ,巨赤芽球性貧血は舌の疼痛,味覚鈍麻,末梢神経障害を生じることが多い。
食事量の減少によるカルシウム摂取量不足,胃酸分泌低下に伴うカルシウムの不溶化,ビタミンDの吸収障害が生じ,血中のカルシウム濃度が減少する。骨代謝障害にて腰痛,関節痛,手足のしびれ,圧迫骨折等を生じる。
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