収縮障害心不全(HFrEF)に対してはかつて、左室収縮力を増強すれば転帰が改善すると考えられ、さまざまな経口強心薬の有用性が検討された。しかしそれら強心薬は、短期的には症状を改善するものの、長期の臨床転帰改善作用を示せなかった。加えてその後、左室抑制作用のあるβ遮断薬がHFrEFの標準治療となるに至り、経口強心薬はHFrEF治療の世界から久しく姿を消していた。しかし今回のAHAでは、新規経口強心薬であるオメカムティブ・メカルビル(OM)がHFrEF例転帰を改善するとした、ランダム化試験(RCT) “GALACTIC-HF”が報告され、話題を集めている。John R Teerlink氏(サンフランシスコVA医療センター、米国)が報告した。OMとこれまで大規模RCTで有用性を示し得なかった強心薬との大きな違いは、心筋細胞内Ca濃度を上昇させることなく心筋収縮力を増加させる点である。
GALACTIC-HF試験の対象は、「左室駆出率(EF)<35%」、かつ(NT-pro)BNP上昇を認めたNYHA分類II~IV度心不全8256例である。入院、外来は問わない。
平均年齢は66歳、男性が79%を占め、アジア人も9%含まれていた。指定討論者のPaul Heidenreich氏(スタンフォード大学、米国)によれば、HFrEF対象RCTとしては過去にないアジア人の多さだという。EF平均値は27%、NT-proBNP中央値はおよそ2000pg/mLで、Teerlink氏は「きわめて高い」と評価した。NYHA分類は、53%がII度、44%がIV度だった。
これら8256例は、全例標準的HFrEF治療の上、OM群とプラセボ群にランダム化され、二重盲検法で21.8カ月(中央値)観察された。
その結果、OM群における、1次評価項目である「心不全イベント・心血管系(CV)死亡」の対プラセボ群ハザード比(HR)は、0.92(95%信頼区間 [CI]:0.86−0.99)と有意低値となっていた。上記「心不全イベント」の内訳は、「救急受診・入院の結果、経口利尿薬調節だけでは対処できなかった心不全増悪」である。これのみで比較すると、OM群におけるHRは0.93(0.86−1.00)、またCV死亡のみであれば1.01(0.92−1.11)だった。さらにかつて多くの経口強心薬で問題となった「死亡」もOM群におけるHRは1.00(0.92−1.09)だった。
亜集団解析からは、興味深い知見が報告された。試験開始時EFの中央値(28%)「以下」群では「超」群に比べ、OMによる「心不全イベント・CV死亡」抑制作用が、有意に増強されていた(交互作用P値:0.003)。
有害事象は、試験薬中止に至った有害事象を含め、両群間に有意差は認められなかった。
前出指定討論者であるHeidenreich氏は本試験結果中、OM群において血圧低下が見られなかった点を大きく評価していた。試験開始24、48週間後とも、両群の収縮期血圧に有意差はない。従来のHFrEF治療薬では血圧低下が問題となる患者が少なくなかったため、この点は非常に重要だという。
本試験はAmgenなどからの資金提供を受けて実施された。また、報告と同時に、NEJM誌にオンライン掲載された。