【早期再分極では心外膜側と心内膜の貫壁性電位勾配が心電図におけるJ点およびST上昇を形成する】
Antzelevitchは,イヌの動脈灌流右室心筋切片モデルの研究から,Brugada症候群の右側胸部誘導におけるJ波およびST上昇の機序を以下のように説明しています1)。
右室流出路付近では心内膜側に比し心外膜側でIto(一過性外向き電流)が多く分布しており,活動電位のphase 1での外向きK+電流の増加,もしくは内向き電流(Na+,Ca2+電流)の減少が起こると心外膜側のnotchが増大し,引き続くphase 2でのdomeが消失します(loss of dome)。結果的に,心外膜側と心内膜の貫壁性電位勾配が心電図におけるJ点およびST上昇を形成します。J点をもたらすItoは右室心外膜に多く分布しているため,右室心外膜で活動電位早期のnotchが形成されやすく,このことがBrugada症候群における右側胸部誘導(右室流出路に相当)でのST上昇の成因となっていると考えられます。
Antzelevitchは,早期再分極症候群における下側壁誘導のJ波を同じ機序で説明していますが,左室心外膜では右室側に比べてItoの働きが弱いため,notchやloss of domeが生じにくく,J波も低電位で幅も短くなります。12誘導心電図においても,Brugada症候群における右側胸部誘導のST上昇と比較して,早期再分極症候群での下壁および側壁誘導におけるJ波は左室を反映するため,電位が低く,幅も短くなると考えられています。Brugada症候群患者における右側胸部誘導のST上昇にItoが関与していることの傍証として,キニジンの有効性が挙げられます2)。
早期後脱分極(early afterdepolarization:EA D)とは,活動電位再分極の途中(phase 2~3)に出現する細胞膜電位の自発的脱分極であり,活動電位持続時間の過度の延長に続いて発生することが多いとされています。EADによって起こる代表的な不整脈は,QT延長症候群に伴う多形性心室頻拍(torsade de pointes:TdP)です。単相性活動電位記録を用いた臨床研究により,QT時間延長は単相性活動電位持続時間の延長によることが証明されています。また,イソプロテレノールやアドレナリンなどのカテコールアミン点滴静注によりEAD様の振幅が記録され,TdP第1拍目の心室期外収縮の機序として,EADからの撃発活動が関与することが直接的に証明されています3)。異常U波もこのEADを反映している可能性はありますが,正常心筋ではEADの発生そのものが考えにくく,異常U波を一元的に説明できる機序は見つかっていません。
Andersen症候群患者ではU波の増高を特徴とすることが知られていますが,Andersen症候群の心筋活動電位を模したIK1電流減少シミュレーション・モデルにおいては心室期外収縮が遅延後脱分極(delayed afterdepolarization:DAD)を起源としてとらえられています。このことから本症候群における心室期外収縮はDADが起源として推察され,さらにDADがU波形成に関与している可能性が示されています。
【文献】
1) Antzelevitch C:Circ J. 2012;76(5):1054-65.
2) Alings M, et al:Pacing Clin Electrophysiol. 2001; 24(9 Pt 1):1420-2.
3) Shimizu W, et al:J Am Coll Cardiol. 1995;26 (5):1299-309.
【回答者】
藤田 聡 三重大学大学院医学系研究科 循環器・腎臓内科学
土肥 薫 三重大学大学院医学系研究科 循環器・腎臓内科学准教授