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急性出血性直腸潰瘍[私の治療]

No.5041 (2020年12月05日発行) P.42

冨樫一智 (福島県立医科大学会津医療センター小腸・大腸・肛門科学講座教授)

五十畑則之 (福島県立医科大学会津医療センター小腸・大腸・肛門科学講座准教授)

登録日: 2020-12-08

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  • 急性出血性直腸潰瘍(acute hemorrhagic rectal ulcer)は,1980年の河野ら1)の報告に端を発し,以降,わが国を中心とした東アジアからの報告2)は多いが,欧米諸国からはほとんどない。UpToDateのテーマとしても取り上げられておらず,東アジア人特有の疾患の可能性がある。典型的には,重篤な基礎疾患を有する高齢者が突然の大量下血で発症し,歯状線近くの下部直腸に不整形の深い潰瘍を有する疾患である。本疾患の成因としては,動脈硬化や長期臥床を誘因とした下部直腸粘膜の虚血とされ,直腸で起こる虚血性腸炎の亜型と考えると,その疾患概念を理解しやすい。

    ▶診断のポイント

    全身状態の悪い高齢者が,突然の大量下血をきたした場合には,第一に本疾患を考える。噴出性あるいは湧出性に持続する動脈性出血がみられるのが特徴である。病歴から本疾患が疑われる場合には,直腸指診,それに続く硬性肛門鏡検査を行う。これにより出血点が確認できれば,本疾患の診断に至ると言っても過言ではない。

    出血が一過性あるいは軽度であれば,憩室出血・虚血性腸炎・出血性腸炎(O157感染など)と鑑別すべきである。腹部骨盤部CT検査や大腸内視鏡検査がその鑑別に役立つ。憩室出血を疑う場合には造影CT検査を行い,造影剤の血管外漏出(extravasation)の有無・その部位を調べる。急性期の虚血性腸炎や感染性腸炎では,CT検査でS状結腸よりも深部大腸の壁肥厚があることから鑑別される。大腸内視鏡検査は,最終的な診断のためには必要であるが,大量に貯留した血液や凝血塊のために検査自体が難しいことがある。肛門鏡下に出血点を同定し,同部位を用手的に圧迫し,出血の勢いを抑えてから内視鏡検査を行うのも一法である。通常は急を要するので,内視鏡検査前の腸管洗浄は不要である。

    内視鏡所見としては,歯状線近傍の下部直腸に限局した不整形,地図状あるいは類円形の潰瘍であり,潰瘍部に出血源となっている血管の露出がみられる。Dieulafoy型の病変も広義の本疾患に含める場合もあるが,病態が異なるため,含めるべきではないと考えられる。文献2)的には,粘膜脱症候群・放射線性直腸炎・宿便性潰瘍との鑑別が重要視されているが,粘膜脱症候群(特徴的な排便習慣を有する)と放射線性直腸炎(ほとんどが照射治療後の晩期障害)は,病歴により容易に鑑別される。宿便性潰瘍は,直腸内に多量の便塊が存在することから鑑別される。

    ▶私の治療方針

    大量の下血により発症し,時に出血性ショックとなるので,速やかに診断し,治療へと進む必要がある。発症時の止血に成功すれば,全身状態の改善とともに潰瘍は自然と治癒するので,発症時の止血操作がすべてである。止血は,肛門鏡を使用して止血部位を同定し,直視下にZ字状に針糸をかけるのが,簡便かつ確実である。肛門鏡は側窓付きの筒型のものを,外科処置用照明下に使用するのがよい。

    噴出性あるいは湧出性の出血がおさまった後に,確定診断と病変範囲を評価するためにファイバースコープによる直腸鏡検査を行う。止血が不十分部位あるいはoozingがあれば,止血クリップ等による内視鏡的止血操作を追加する。本疾患の大多数は,これらの止血操作により出血のコントロールは可能であり,腹会陰式直腸切断術などの外科的腸管切除を要することはまずない。

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