1 赤血球の異常
小球性貧血を診たら
・鉄欠乏の判定は必ずフェリチンを評価すること。血清フェリチン値12ng/mL未満なら鉄欠乏性貧血(IDA)と確定。フェリチンを測定せずに,鉄剤を開始するのは御法度!
・男性と更年期以降の女性のIDAでは,上部および下部の消化管内視鏡検査を行う。月経のある女性における高度なIDAでは,過多月経の原因検索のために,産婦人科医へ紹介。
・IDAと誤診しやすいのは慢性疾患に伴う貧血(ACD)。ACDでは血清鉄低下だが,フェリチンは正常から増加。
・日本にもサラセミア患者はいる。「MCVが極端に低値(60fL台が多い)なのに,赤血球数は増加する」という特異なパターンで気づく。
・鉄剤に反応しないIDAについては,チェックリストを使って必ず再評価を行うこと。
大球性貧血を診たら
・MCV 110以上で,ビタミンB12と葉酸を測定。異常があれば巨赤芽球性貧血として,原因となる疾患/病態の診断へ。
・MCV 100~110では,精査を行っても原因が見つからない「原因不明の大赤血球症(unexplained macrocytosis)」がほとんどだが,経過観察でよい。
正球性貧血を診たら
・日常診療で遭遇する頻度が高いのはACD(腎性貧血も含む)である。
・見逃してはいけない3大疾患は,①溶血性貧血,②再生不良性貧血,③急性白血病。
・溶血性貧血では貧血が急激に進行する(急性溶血発作)ことがある。その場合は血液学的エマージェンシーとして,速やかに専門医療機関へ紹介する。
赤血球の増加(多血症)を診たら
・喫煙者の赤血球増加症の圧倒的多数は,喫煙そのものが赤血球増加の原因(喫煙者多血症)。喫煙者の赤血球増加症における,真性赤血球増加症(PV)やその他の二次性赤血球増加症の頻度は1%以下である。
・非喫煙者の赤血球増加症の原因としては,喫煙以外の原因による相対的赤血球増加症の頻度が高いが,PVも30%程度を占めているので注意を要する。
・Ht値が男性60%,女性55%以上の著明な高値を示す場合は,絶対的赤血球増加症(PVなど)である可能性が非常に高い。
2 白血球の異常
白血球の異常を診たら
・好中球数200/μL以下の無顆粒球症および好中球減少時の発熱である発熱性好中球減少症(FN)は,血液学的エマージェンシーとして迅速な対応を。
・プライマリケアで遭遇する好中球増加症の原因としては,急性の経過なら感染症(主に細菌感染)が,慢性の経過なら喫煙や肥満が背景の「慢性特発性好中球増加症(chronic idiopathic neutrophilia)」が大部分を占める。
3 血小板の異常
血小板の異常を診たら
・血小板数が2~30000/μL以下で,出血症状があれば,血液学的エマージェンシー。直ちに専門医療機関へ搬送する。
・血小板数のみが低下しており,血小板減少に見合う出血傾向がない場合には,偽性血小板減少症を疑う。
・偽性血小板減少症を除外し,見逃されている基礎疾患,妊娠,薬剤性ではないと判断できる場合,特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の可能性を考える。ITPの診断は除外診断によってなされる。
・血小板増加症の診断では,反応性(二次性)のものであるか,本態性血小板血症(ET)をはじめとする骨髄増殖性腫瘍であるかを鑑別する必要がある。
・1回だけの採血結果で血小板増加症と決めつけないで,推移をみる。
・持続性の血小板増加(血小板数450000/μL以上)が認められ,反応性血小板増加症の原因疾患が見つからない場合は,ETなどを鑑別するために専門医へ紹介。