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放射線性腸炎[私の治療]

No.5043 (2020年12月19日発行) P.34

三上達也 (弘前大学医学部附属病院光学医療診療部診療教授)

福田眞作 (弘前大学大学院医学研究科消化器血液内科学講座教授)

登録日: 2020-12-17

最終更新日: 2020-12-16

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  • 疾患名の通り,放射線治療を行ったことにより生じる腸炎のことである。前立腺癌・子宮頸癌などの骨盤内悪性腫瘍に対して放射線治療を行った後に生じることが多い。直腸,S状結腸に生じることが多く,頻度は少ないが小腸に生じることもある。照射から障害が発生するまでの期間により,早期障害(照射中~数週間程度)と晩期障害(数カ月~数年間)に分類される。

    ▶診断のポイント

    【症状】

    下痢・排便困難などの便通異常あるいは血便などの非特異的な症状を呈するため,他の疾患との鑑別が必要である。骨盤内悪性腫瘍に対する放射線治療の既往の有無と,あればその時期を問診で確認することが重要となる。

    【検査所見】

    早期障害の場合には,問診と症状から臨床的に診断されることが多い。晩期障害の場合には,他疾患との鑑別が必要になる。近年は,大腸内視鏡を施行して診断することが多い。障害の程度によって,内視鏡所見は異なる。男性で,直腸の特に下部直腸(Rb)に多発する毛細血管の拡張を認めた場合には,前立腺癌への照射後のことが多く,診断的価値が高い。実臨床では,内視鏡前の問診で照射歴の確認がされていないことも多く,特徴的な内視鏡所見から,照射の既往を確認して診断されることもある。頻度は高くないが,潰瘍を伴ったり,さらに重症になると狭窄,腟・膀胱などとの瘻孔を伴ったりすることもある。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    早期障害は,浮腫による局所還流障害が原因と考えられている1)。一過性のことが多いため,対症療法が中心になる。

    一方,晩期障害は,動脈内膜炎による血流障害からくる二次的変化と考えられており,不可逆性である1)。血便があっても貧血が進行するほどではない場合には,硬便にならないように,排便のコントロールをする。血便が多くなり貧血が進むようであれば,アルゴンプラズマ凝固法(argon plasma coagulation:APC)による内視鏡治療が有効である。APCはアルゴンガスを用いた非接触型の凝固法で,浅い深度の焼灼が可能である。放射線照射後の粘膜は脆弱であり,APC後の潰瘍治癒の遷延化,狭窄,瘻孔形成などの報告もある。そのため,焼灼が深くならないよう,焼灼時にはプローブを粘膜面から離し,出力・流量などに十分な注意を払うことが重要である。毛細血管拡張の範囲が広い場合には,1回の治療で終わらせようとせずに,2~3回にわけて治療を計画する。狭窄が強い場合,瘻孔を有する場合には手術を考慮する必要がある。

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