【質問者】
藤原俊義 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 消化器外科学教授
【ICUの機能低下や,人工呼吸器不足,医療チームのマンパワーなどを慎重に判断して,食道癌の手術療法を実施する必要がある】
一般に食道癌は他の固形がんに比べ悪性度が高く,早急に積極的な治療が必要であることが多いです。食道癌は外科手術の中でも大侵襲手術を必要とし,ICUや人工呼吸器での管理を必要とする代表的な疾患です。一方,COVID-19は,ICUの機能低下や,人工呼吸器不足,医療チームのマンパワー不足をもたらします。このことから,食道癌手術は,最も影響を受けやすい手術と言えます。そこで,我々は,COVID-19蔓延下で,食道癌手術にいかに対応すべきか,指針を立ててみました1)。本稿では,その要点を述べさせて頂きます。
まずは,各医療機関の状態を下記の3つのPhaseに分類します。
・PhaseⅠ:COVID-19患者がほとんどいない。病院の治療資源が枯渇していない。ICUでの人工呼吸器にまだ余裕がある。病院内のCO VID-19患者の増加傾向が急速ではない状態
・PhaseⅡ:ICUでの人工呼吸器が限られている。病院内のCOVID-19患者が急速に増加している状態
・PhaseⅢ:病院の治療資源がすべてCOVID- 19患者のために使用されている状態。ICUで使用できる人工呼吸器がない状態
最も対象が多く,標準的と言えるStageⅡ,Ⅲの進行食道癌の治療についての方針を考えてみます。まず,PhaseⅠの医療機関で,T1b以上の患者は,基本的に,通常のタイミングで手術療法を考慮すべきです。さらに,術前化学療法(neoadjuvant chemotherapy:NAC)が適応となる患者であれば,可能な限りNACを施行します。また,既にNACが終了している患者では,さらに数サイクルのNACの追加にて,手術日程の変更も考慮されると思います。
PhaseⅡおよびPhaseⅢの医療機関では,気管閉塞例などの緊急対応例を除き,基本的に患者をPhaseⅠの施設へ転院させることを考慮します。また,既にNACが実施され,転院等が困難な場合には,化学放射線療法(chemoradiotherapy:definitive CRT)に変更することも考慮します。
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