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繰り返すアナフィラキシーと総IgE低値の関連について

No.5050 (2021年02月06日発行) P.58

濱田祐斗 (相模原病院臨床研究センター)

福冨友馬 (相模原病院臨床研究センター 診断・治療薬開発研究室長)

登録日: 2021-02-08

最終更新日: 2021-02-03

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71歳,女性。2019年4月6日15時頃に畑仕事。夕方食事前に,嘔気・嘔吐・発熱が出現し,21時に救急外来へ来院しました。
体温41℃,血圧148/69mmHg,ほか身体理学所見で,心肺異常なし,右前腕から上肢に発赤腫脹があり,メチルプレドニゾロン(ソル・メドロール®)静注用125mgを投与にて軽快しました。
アナフィラキシーとして4月6~11日入院。検査結果によると,免疫グロブリン(immunoglobulin: Ig)Eが1IU/mL(4月8日),4IU/mL(7月8日)と低値です。過去にも4年に1回,春か秋に出現していたとのことです。尿中フリーコルチゾールは正常でした。

現在,アムロジピンOD錠5mg1錠,アトルバスタチン5mg1錠(夕方)を投与中です。
(1)アナフィラキシー(原因?)と総IgE低値の関連について。
(2)アナフィラキシー予防として,アドレナリン(エピペン®)携帯を勧めましたが,妥当でしょうか。(新潟県 H)


【回答】

【総IgE値が低値でもアナフィラキシーは起こりえる】

ご質問ありがとうございます。悩まれたケースだと想像します。

繰り返すアナフィラキシー症例とのことで,まずアナフィラキシーの診断について考えます。日本アレルギー学会Anaphylaxis対策特別委員会作成の「アナフィラキシーガイドライン」によりますと,アナフィラキシーとは「アレルゲン等の侵入により,複数臓器に全身性にアレルギー症状が惹起され,生命に危機を与えうる過敏反応」とされています1)。診断基準は1~3のいずれかを満たした場合です(表1)。


今回のケースについて考えますと,「右前腕から上肢にかけての発赤腫脹」を皮膚症状,夕食前に出現した「嘔気・嘔吐」を持続する消化器症状ととらえて「アナフィラキシー」と診断なさったのだろうと推察します。しかし,診断基準に照らし合わせますと,今回の限局的な右前腕から上肢にかけての発赤腫脹だけでは皮膚症状とみなされないため,ご提示頂いたケースの情報からのみでアナフィラキシーと診断できません。

日常臨床でアナフィラキシーかどうかの診断に迷うことはあり,その場合,自覚症状を能動的に問診することで受診に至った症状がアナフィラキシーであったかどうかを判断しやすくなります。特に蕁麻疹,紅潮,瘙痒といった症状は,医療機関への受診までに消失してしまうことがありますので注意が必要です。また,アナフィラキシーかどうかの判断が難しい場合,バイオマーカー診断として総トリプターゼ値の測定が有用です。ただし,総トリプターゼ値の測定は現時点で保険外診療です。注意としては,ベースライン時とアナフィラキシー発症時の総トリプターゼ値を比較するため測定タイミングが重要です。今回のケースのようにアナフィラキシー発症後から受診まで時間が経過している場合には,アナフィラキシーの診断に対する感度が低下してしまう可能性があります。

ご質問の1つ目,アナフィラキシーと総IgE低値に関して,まずアナフィラキシーの機序について考えます。多くはⅠ型アレルギーではありますが,IgEが関与しない機序や非免疫学的機序によってもアナフィラキシーが誘発されることがあるため(表2),総IgE値が低値であろうがなかろうがアナフィラキシーは起こりえます。

ご質問の2つ目,アナフィラキシー予防としてアドレナリン(エピペン®)携帯を勧めることが妥当かということに関して,一般的にアナフィラキシーの臨床診断であった場合,アナフィラキシーの薬物治療の第一選択薬はアドレナリンであるため,予防のためのアドレナリン携帯は必要と考えられます。繰り返すアナフィラキシーの場合,なおさらアドレナリン携帯は必須です。アドレナリン携帯が必要かどうかは,臨床診断がアナフィラキシーであったかどうか,また今後アナフィラキシーを発現する可能性が高いかどうかによります。今回のケースでは,今後アナフィラキシーを発現する可能性は判断できず不明です。ご提示頂いた以外の情報も併せて,ご質問者様がアナフィラキシーと診断をなさった場合,アドレナリン携帯の推奨は妥当と考えられます。

【文献】

1) 日本アレルギー学会Anaphylaxis対策特別委員会:アナフィラキシーガイドライン. 協和企画, 2014.

【回答者】

濱田祐斗 相模原病院臨床研究センター

福冨友馬 相模原病院臨床研究センター 診断・治療薬開発研究室長

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