腹痛の原疾患は多岐にわたる。腹膜炎症状とショック症状を見逃さないようにする。「ショックバイタル」「腹膜刺激徴候」の存在は,治療介入を要するため,迅速な診断が重要である。
腹痛の鑑別,治療方針の決定には,身体所見,画像検査(超音波検査,腹部単純X線検査,腹部骨盤造影CT検査)が有用である。診断確定後の治療法の詳細は各稿を参照のこと。
発症様式:突然発症(血管原性,消化管穿孔を示唆)の有無を確認する。
痛みの性状:痛みのピークが発症直後から持続しているのか,間欠的か。鈍痛,歩行時に腹部に響くか。痛みの増悪および寛解因子を聴取する。
放散・関連痛:肩(左肩への放散痛は心筋梗塞の場合があり要注意),背部,腰,会陰部への放散痛を確認する。
随伴症状:①発熱の有無,②嘔吐,下痢,吐血・下血,黄疸などの消化器症状,③血尿,排尿時痛,陰囊痛などの泌尿器科症状,④不正出血,帯下などの婦人科症状,⑤排便の有無・性状,排ガスの有無,⑥心窩部痛や上腹部痛の場合は心大血管系,呼吸器系疾患も念頭に置く。
既往症:既往症の聴取は重要である。過去に同じような痛みを経験しているか,手術歴を聴取する。
その他:海外渡航歴,食事内容を確認する。サバ・サンマ・イカなどの生食歴があればアニサキス症を疑う。
妊娠の可能性:生殖年齢の女性では必ず聴取する。
ショックバイタルを見逃さない。
頻脈,低血圧:出血または脱水による低容量性ショックを疑う。
発熱(意識障害を伴うことも),頻脈,低血圧:腹膜炎(下部消化管穿孔,腸管虚血等),急性胆管炎等による敗血症性ショックを疑う。
非ショック時の身体診察のポイントを以下に挙げる。バイタルサイン,病歴聴取,身体診察の後,必要に応じて,血液検査,画像検査を追加する。
視診:腹部膨隆がある場合,打診による鼓音を認める場合は腸管拡張,濁音を認める場合は腹水または腹腔内出血を疑う。腹壁静脈怒張の拡張を認める場合は,門脈圧亢進症,肝硬変を疑う。鼠径部に膨隆を認める場合は,鼠径ヘルニア(鼠径靱帯よりも頭側にヘルニア門)もしくは大腿ヘルニア(鼠径靱帯よりも尾側にヘルニア門)嵌頓を疑う。著明な拍動を認める場合は,腹部大動脈瘤の存在を疑う。
聴診:腸蠕動の亢進(金属音)があれば機械的イレウス(閉塞性腸閉塞),腸蠕動の消失は麻痺性イレウスを疑う。
打診:肝濁音界の消失は腹腔内遊離ガスの存在,背部(肋骨脊柱角)叩打痛があれば,同側後腹膜腔の炎症性疾患または尿路結石症,急性腎盂腎炎を疑う。
触診:原則,疼痛部位から離れたところから触診を開始する。圧痛部位と腹膜刺激症状(反跳性疼痛,筋性防御→腹膜炎)の有無を確認する。Murphy徴候(→急性胆囊炎),McBurney圧痛点(→急性虫垂炎),Howship-Romberg徴候(→閉鎖孔ヘルニア)など,疾患特有の触診所見を認めることがある。
直腸指診:血便の性状(新鮮血・タール便),前立腺の圧痛(→急性前立腺炎),子宮頸部の圧痛(→骨盤腹膜炎,子宮付属器炎などの婦人科疾患),腫瘤触知(→直腸癌)を確認する。
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