脊髄損傷に対する手術は,麻痺の改善効果がないと以前は考えられていたが,近年,不全麻痺に対する急性期手術は麻痺の改善効果があるとの報告が増えてきた。また,再生医療により,完全麻痺でも麻痺の改善が期待できるようになってきたため,脊髄損傷に対する急性期手術は考慮する価値があるという流れが急速に広まりつつある。しかし,全身状態が重篤な状況下での急性期手術は危険性が高く,救急医と脊椎外科医との連携が重要である。
完全麻痺であっても,高エネルギー外傷と低エネルギー外傷とでは大きく異なる。低エネルギー外傷であれば,脊髄に対する二次損傷を防ぐことで麻痺の改善が期待できる。外傷がなく脊髄損傷となる特発性脊髄硬膜外血腫は,迅速な除圧手術により完全麻痺であっても良好に麻痺が改善する好例である。
また,頸椎の受傷機転が過屈曲か過伸展かの情報は重要で,過伸展損傷であれば軽度前屈位に頸部を保持することで麻痺が改善することが多い。
高齢者の脊椎・脊髄損傷が増加しているため,既往の併存疾患,処方薬の情報を収集することが急性期手術には必須である。頸椎症性脊髄症や後縦靱帯骨化症など外傷前から下肢の深部腱反射亢進があり,転倒によって重篤な脊髄損傷となる症例も増えており,受傷前のADLについても聴取が必要である。
頸髄損傷完全麻痺であれば,神経原性ショックが生じ,徐脈と低血圧になる。気道分泌が亢進することと肋間筋麻痺による1回換気量低下のため,無気肺になりやすい。神経原性ショックに対し,輸液負荷により血圧を上げようとすると,過剰輸液となり肺合併症を助長するので,注意を要する。脱臼整復,骨折に対する牽引,頸部の前後屈の調整などは脊髄圧迫に対する除圧効果があり,麻痺に変化がみられる。そのため,神経所見を経時的にとることが重要で,特に受傷当日は繰り返し診察するべきである。非骨傷性頸髄損傷は軽度前屈位で麻痺の回復がみられることがあり,漫然とした頸椎カラーの装着は回復阻害につながる可能性を知るべきである。
残り1,580文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する