近年,日本では出生体重の低下が問題となっている。現在の平均出生体重は3000g未満で,全出生の約10%が2500g未満である。中でも,在胎週数に比較して出生身長・体重ともに10パーセンタイル未満をSGA(small for gestational age)と呼ぶ。SGA児は,胎内で十分に育たない環境や遺伝要因を背景に有している。SGAの成因には大きくわけて,①母体側の因子,②胎児側の因子,③胎盤の問題があると考えられる。①では妊娠中の母体の低栄養,狭骨盤,妊娠合併症(妊娠高血圧症候群など),喫煙,②では染色体異常,特定の症候群など,③では胎盤の虚血や臍帯付着異常などがある。最近の研究では,SGAの成因の一部が受精時の卵子や精子の状態に起因する可能性があり,それがインプリンティング(刷り込み)異常を起こすことによることが明らかになってきた。これは,ゲノム(遺伝子そのもの)の変化によるのではなく,父由来や母由来でのみ発現するはずのインプリンティング遺伝子の発現調節の変化により起こる,“エピゲノム”の異常ということである。
このようにSGAの成因は様々であり,一口にSGAと言ってもヘテロな集団であることが容易に想像される。SGA児の生後の成長をみると,全体の85~90%に成長捕捉(キャッチアップ)がみられ,身長は標準身長の範囲内である平均身長の−2SD以上に達する。残りの10~15%は低身長のまま成長し,これをSGA性低身長症と呼ぶ。S GA性低身長症では,成長ホルモン治療が有効であることが臨床試験で明らかとなり,2008年に保険診療の適用となった。複数の国内製薬メーカーによる治験では,治療開始時に身長−3SD前後であった症例が,成長ホルモンの用量依存性に,約5年後には−2~−1SDに改善した。海外では,成長ホルモン治療により知能発達の改善が認められたとの報告もあり,低身長の改善とともにQOLも改善することが期待される。
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