ARB・ネプリライシン阻害薬(ARNi)は、2014年に報告されたランダム化比較試験(RCT)“PARADIGM-HF”において、レニン・アンジオテンシン系阻害薬(RAS-i)を上回る慢性心不全(HFrEF)転帰改善作用を示した。しかし同試験ではNYHA分類Ⅳ度心不全が占める割合は1%未満であり、この患者群に対する有用性は不明である。
そのため、Ⅳ度心不全のみを対象としてARNiの有用性を、代替評価項目を用いて検討するRCT“LIFE”が実施され、バーチャル開催された米国心臓病学会(ACC)学術集会で報告された。報告者は、ワシントン大学セントルイス(米国)のDouglas L. Mann氏。試験結果に「驚かされ、そして落胆した」と総括した。
LIFE試験の対象となったのは、「左室駆出率(LVEF)≦35%」で(NT-pro)BNP上昇を認め、かつ心不全増悪因子を有するNYHA Ⅳ度心不全462例。全例、服用していたRAS-iを中止の上、低用量ARNiの3~7日服用(導入期)に忍容できた例である。
平均年齢は59歳、LVEF平均値は20%で、収縮期血圧平均値が112mmHgだった。ループ利尿薬が93%、β遮断薬も78%、アルドステロン拮抗薬は57%で用いられていた。
これら462例は、低・中等用量のARNi、あるいはARB群にランダム化され、4週間後に忍容最大用量まで増量し、さらに最低20週間(合計24週間)、二重盲検法で観察された。
その結果、1次評価項目である「NT-pro BNP」濃度は、ARNi群、ARB群とも開始時より低下することなく上昇。ARNi群のほうが上昇幅は小さかったものの、有意差とはならなかった。
一方、臨床転帰は逆の傾向を示した(最長168週間観察)。
すなわち、2次評価項目として設定された「心不全イベントなき院外生存期間」は、ARB群の111.2日に対し、ARNi群では103.2日だった(P=0.45)。
さらに3次評価項目の「心血管系死亡・心不全入院」も、ARNi群におけるハザード比(HR)は1.32だった(95%信頼区間[CI]:0.86-2.03)。「心不全入院」のみで比べても、同様の傾向だった(HR :1.24、95%CI:0.80-1.93)。なお、いずれもカプランマイヤー曲線は、ランダム化後40~50週間まではARNi群が上を行き、その後小幅だがクロス。そして70週間経過以降には再びARNi群で高値を示すという経過をたどった(70週間経過時の患者数は開始時の約8割)。
安全性は、高K血症がARNi群で有意に多かった(17 vs. 9%、P=0.035)。血管浮腫は、ARB群に1例を認めたのみだった。
PARADIGM-HF試験と結果が異なった理由としてMann氏は、①LIFE試験参加例のほうがより重篤、②PARADIGM-HF試験に比べ導入期が短く、またARNi導入期用量が低かった、③対照薬が異なった(PARADIGM-HFはACE阻害薬[心筋での振る舞いがARBと異なるとMann氏])―の3点を、プレゼンテーションで指摘した。
加えてその後のディスカッションにおいて、RAS-iとNEP阻害による過度の血行動態変動が、代償的なRA系亢進をもたらした可能性にも同氏は言及した。それゆえ、NT-pro BNP上昇はARBに比べ抑制傾向を示しながら臨床転帰が増悪したという理解である。
また、NEP阻害に対する生体の代償機転が悪影響を与えた可能性については、今後、検討する予定だという。
本試験は米国NHLBIからの資金提供を受けて実施された。また、コーディネート・センター運営費としてNovartis社も資金を提供した。