昨年の米国心臓協会(AHA)学術集会で報告されたランダム化比較試験(RCT)“STRENGTH”では、オメガ3脂肪酸による心血管系(CV)イベント抑制作用が確認されず、同じくオメガ3脂肪酸でCVイベント減少を報告したRCT“REDUCE-IT”の結果を否定するものとなった。
STRENGTH試験報告者はこの違いを、対照群の違い(コーン油と鉱油)で説明していたが(https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=15924)、試験で用いられたオメガ3脂肪酸の違いが影響している可能性も出てきた。ドコサヘキサエン酸(DHA)は用量依存性に、エイコサペンタエン酸(EPA)のCV保護作用を減弱させるかもしれない。大規模観察研究の結果として、インターマウンテン医療センター(米国)のViet Le氏が報告した。
同氏らは、同施設が組むINSPIREレジストリ内の2万5000名弱から、1994~2012年に冠動脈造影を初回施行した987名をランダム抽出し、血中EPA、DHA濃度と死亡・CVイベント(心筋梗塞・脳卒中・心不全入院)の関係を調べた。
対象の平均年齢は61.5歳、男性が57%を占めた。冠動脈造影上で病変を認めなかった例の割合は38.8%だった。そして10年間で、これら987例中の31.5%が「死亡・CVイベント」をきたした。
観察開始時のオメガ3脂肪酸濃度と「死亡・CVイベント」発生リスクの関係を見ると、EPAでは血中濃度四分位群が高くなるに従い、発生リスクが減少する傾向が認められた。この傾向は、DHA濃度の高低に影響を受けていなかった。
一方、DHA濃度は、未補正ならば「死亡・CVリスク」と相関を認めないが、EPA濃度で補正すると、DHA高濃度ほど「死亡・CVリスク」が高くなる傾向が明らかになった。合併症による影響を補正しても同様である。つまり、DHA濃度が高くなるほど、EPAによる「死亡・CVイベント」抑制作用は減弱されると考えられた。
そこで、987例をEPA/DHA比「≦1」群(444名)と「>1」群(543名)の2群に分けて「死亡・CVイベント」リスクを比較したところ、EPA濃度に対しDHA濃度が相対的に低い「>1」群では、ハザード比が0.69の有意低値となっていた(95%信頼区間:0.55-0.86)。
さらに、オメガ3脂肪酸によるCVイベント抑制作用を検討したエビデンスを振り返りたい。
抑制作用が認められたREDUCE-IT、そしてわが国から報告されたJELISの2試験はいずれも、EPAのみを服用している。一方、ネガティブ試験に終わった冒頭のSTRENGTH、そしてVITAL、ASCEND、OMEMI試験はいずれも、EPAに加え、380~800mgのDHAを併用していた。
CVイベント抑制の観点からは、EPAへのDHA追加には懸念がある―、Le氏はそう結論した。
本発表には研究資金についての言及はなかった。