高アンモニア血症をきたす疾患として,先天性のものと後天性のものがある。先天性の高アンモニア血症としては尿素サイクル異常症と有機酸代謝異常症が,後天性の高アンモニア血症としては肝不全が代表的なものである。いずれの疾患も,脳内でのアンモニアレベルの上昇やアミノ酸のインバランスによって様々な神経症状をきたす。
肝不全による高アンモニア血症は,原疾患の治療や血漿交換療法などが優先される。一方で先天性の高アンモニア血症の場合,単一酵素欠損であるために,障害部位以外の肝機能は原則的には保たれている。
尿素サイクルとは,主に肝臓において,生体内で発生する有毒なアンモニアを無毒な尿素に変えていく経路である。尿素サイクル異常症はこの代謝系に先天的な異常があり,原則として代謝性アシドーシスを伴わず高アンモニア血症を呈する疾患群である。有機酸代謝異常症での高アンモニア血症は代謝性アシドーシスに併発し,代謝産物が尿素サイクルのN-アセチルグルタミン酸合成酵素(NAGS)を阻害することで生じる。本稿では,先天性の高アンモニア血症に関して解説する。
通常生後数日以内に,頻回に起こる嘔吐,哺乳力低下,多呼吸,痙攣,意識障害などで発症する。急性期離脱後も,異化亢進(発熱,絶食など)の際に再発することがある。
first lineの検査として,血糖,血液ガス,アンモニア,乳酸/ピルビン酸,血中/尿中ケトン体/血中遊離脂肪酸が重要である。血中アンモニア高値の基準は,新生児期は>200μg/dL(120μmol/L),乳児期以降は>100μg/dL(60μmol/L)である1)。
second lineの検査は,発症時の血清,尿,濾紙血をcritical sampleとして保存して施行する,タンデムマス検査,アミノ酸分析,尿中有機酸分析(尿中オロト酸分析を含む)である。これらの検査は高アンモニア血症をきたす疾患の鑑別に有用である。最終的に酵素診断,遺伝子解析で確定診断とする。
高度の高アンモニア血症に遭遇した際,確定診断がつく前に病態に合わせた治療を開始する必要がある2)。
蛋白質摂取を制限し,蛋白質の異化を防ぐために血糖を高めに保つ。しかし,ミトコンドリア異常症やシトリン欠損症の場合は高乳酸血症を誘発するため,診断未確定の場合は特に,血液ガスの乳酸値上昇に注意を払う。同時に,大量のビタミン製剤を投与する。これらは,様々な代謝酵素の補酵素であり,さらに一次的,あるいは二次的に生じているミトコンドリア障害への治療となる。
代謝性アシドーシスへのメイロン®(炭酸水素ナトリウム)投与には様々な意見があるが,循環不全や呼吸不全を改善させてもpH 7.2>で,先天性代謝異常症を疑った場合は,メイロン®を投与する。ただし,メイロン®による細胞内アシドーシスの増悪やNa+による高ナトリウム血症が問題となるため,改善がみられない場合は,すぐに血液浄化療法に移行する。
高アンモニア血症が改善し,維持期に入ることができたら,基礎疾患に合わせて,特殊ミルクなども含む疾患特異的治療を行う。
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