【質問者】
吉本幸司 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 脳神経外科学教授
【脳動脈瘤の病態進行には,マクロファージを主体とした慢性炎症が関係している】
脳動脈瘤は脳血管が外側に膨隆する病気であり,くも膜下出血の主たる原因疾患です。脳動脈瘤の脳動脈壁は内弾性板が消失しており,中膜の平滑筋細胞や細胞外基質が減少して,壁が菲薄化,脆弱化しています。
近年,動物モデルやヒト脳動脈瘤の手術摘出標本を用いた研究で,脳動脈瘤壁にはマクロファージを主体とする炎症細胞の集積がみられること1),マクロファージの集積を抑制することにより,脳動脈瘤の増大が抑制されること2)が明らかになってきました。マクロファージからはmatrix metalloproteinase(MMP)-2,9などの蛋白分解酵素が分泌され,それが壁の脆弱性をもたらすと考えられます。マクロファージの集積をもたらすのは,走化性因子であるmonocyte chemotactic protein-1(MCP-1)や接着分子であるvascular cell adhesion molecule-1(VCAM-1)であり,これらの発現は脳動脈瘤の初期病変で上昇します。
脳動脈瘤壁の中でも,特に増大や菲薄化などの退行性変化を起こすような活動性の病変では,このような炎症関連因子の発現が持続していると考えられています。そのkey playerとなるのが,転写因子であるnuclear factor-kappa B(NF-κB)と生理活性脂質のプロスタグランジンE2(PGE2)です3)。特にプロスタグランジン受容体のひとつであるEP2受容体が動脈瘤に発現し,その発現が高い動脈瘤ほどマクロファージが血管壁に多く集積することが知られています。また,マクロファージでNF-κB活性化を抑制したマウスで脳動脈瘤形成が抑制され,EP2受容体発現をマクロファージのみで欠損させても脳動脈瘤形成が抑制されました。
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