気管支喘息(以下,喘息)は,可逆性のある気道狭窄,気道過敏性の亢進を特徴とする気道の慢性炎症性疾患である。長期管理には,吸入ステロイド(ICS)を中心とした抗炎症薬が中心となる。喘息の急性症状には,速効性の気管支拡張薬である短時間作用性β2刺激薬(SABA)吸入のみでの対処から,速効性の気管支拡張薬とともにICSを併用する治療のエビデンスがそろってきた。
喘息には様々なフェノタイプ(表現型)の患者が存在する。特に,重症喘息において,好酸球優位の気道炎症で,IL-4,IL-5,IL-13といった2型のサイトカインが病態形成に重要な役割を担っているフェノタイプでは,これらのサイトカインを標的とした治療薬が臨床応用され効果を発揮している。
発作性の呼吸困難,喘鳴,息切れ,咳,胸部絞扼感などの症状が変動性に認められ,特に夜間や早朝に増悪しやすいという特徴がある。また,症状が無症状の時期を挟んで反復する場合や,様々な誘因(感冒,アレルゲン曝露,運動,飲酒,気候の変化,冷気や喫煙など)により誘発されることも喘息を疑わせる根拠となる。
喘息を示唆する検査所見としては,気道可逆性〔SABA吸入により1秒量(FEV1)の12%かつ200mL以上の改善〕,呼気一酸化窒素濃度(FeNO)>35ppb,喀痰好酸球比率≧3%,末梢血中好酸球>5%あるいは>300/μLがある。IgE高値(総IgEあるいは吸入抗原に対する特異的IgE)も参考になる。気道過敏性の亢進は重要であるが,専門施設で行われる。ピークフロー(PEF)値の日内変動が大きいことも診断に有用である。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)との鑑別や合併が重要で,COPDでは長期の喫煙歴,中年期以降の発症,労作時の呼吸困難,肺拡散能などの呼吸機能検査,CT所見が参考になる。最終的には,特に左心不全,腫瘍や結核による中枢気道狭窄など,咳,喘鳴,呼吸困難を訴える他の疾患を除外した上で診断する。
増悪因子(アレルゲン,消炎鎮痛薬などの薬剤)の回避と最小限の薬物療法により,喘息症状や薬の副作用がなく日常生活に支障がないように喘息をコントロールし,呼吸機能を維持して増悪や喘息死を防ぐことが喘息治療の目標である。
喘息の長期管理の薬物療法ではICSが第一選択薬であり,重症度に応じて長時間作用性β2刺激薬(LABA),長時間作用性抗コリン薬(LAMA),ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA),テオフィリン徐放製剤を併用する。最重症の難治症例では,抗IgE抗体,抗IL-5抗体,抗IL-5受容体α鎖抗体,抗IL-4/IL-13受容体抗体製剤による治療の追加,あるいは気管支熱形成術の施行を検討する。
現在の日本のガイドラインでは,喘息治療をその強度から4つの治療ステップにわける。未治療患者は,症状を目安にして重症度を判定し治療ステップを選択する。既に長期管理薬を用いている場合には,現在の治療ステップ下でなお認められる症状から重症度を判定し,適正な治療ステップを選択する。
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