経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)施行後、およそ3割が心房細動(AF)を発症すると言われる。ではTAVI後AF例に対する抗凝固療法は、DOACとビタミンK拮抗薬(VKA)のいずれを選択すべきだろうか―。そのような問いに応えるべく実施されたのが、ランダム化試験(RCT)“ENVISAGE-TAVI AF”である。その結果、本年ACC(米国心臓病学会)で報告されたATLANTIC試験同様、DOACの明確な優位性は確認できなかった。8月27日からWeb上で開催された欧州心臓病学会(ESC)学術集会において、George Dangas氏(マウントサイナイ医療センター、米国)が報告した。
ENVISAGE-TAVI AF試験の対象は、TAVI成功後に30秒以上持続するAFが検知され、抗凝固療法の適応があった1426例である。ただし出血高リスク例は除外されている。日本からも159例が登録された。
平均年齢は82歳、女性が47.5%を占めた。CHA2DS2-VAScスコア平均値は4.5、DOAC群であれば減量が必要となる例が46.4%含まれていた。
これら1426例は、DOAC“エドキサバン”60mg/日(減量規定相当例は30mg/日)群と、VKA群にランダム化された。VKA群の目標INRは2.0-3.0(日本の高齢者は1.6-2.6)である。また両群ともランダム化後、約60%が抗血小板薬を服用していた。抗血小板薬の種類、単剤/2剤併用の割合は両群で同等である。なおDangas氏によると、本試験におけるVKA群のINR管理状況はこれまでの臨床試験と同等で、とりわけ優れていたわけではなかったという。
その結果、548日間(中央値)観察後、有効性1次評価項目である「死亡・心筋梗塞・脳梗塞・全身性血栓塞栓イベント・弁血栓・大出血(ISTH基準)」(Net Adverse Clinical Events:NACE)の、DOAC群における対VKA群HRは1.05(95%CI:0.85-1.31)と有意差はなく、非劣性も確認された(P=0.014)。
一方、安全性1次評価項目である「大出血(ISTH基準)」のDOAC群HRは1.40(95%CI:1.03-1.91)と有意に高く、VKAに対する非劣勢は確認されなかった(P=0.927)。
DOAC群における大出血リスク増加の大きな要因となっていたのは、消化管大出血である(5.4 vs. 2.7%/年。HR:2.03、95%CI:1.28-3.22)。なおプロトンポンプ阻害薬の服用率に、群間差はない。また頭蓋内出血はDOAC群:1.5%/年、VKA群:2.1%/年で、有意差を認めなかった。
指定討論者のJean-Philippe Collet氏(ソルボンヌ大学、フランス)は、サブグループ解析において、DOAC減量「不要」群のほうが、「必要」群に比べ、「消化管大出血」、「総死亡」ともリスクが高かった点に注目。「減量不要」と判断された患者群の中に「減量必要」例が含まれており、それらにおける過量服用が出血リスクを増していた可能性を指摘した。
また報告者のDangas氏も討論の中で、両群とも脱落率が高かった(DOAC群:30.2%、VKA群:40.5%)点に言及し、それら全例が抗血栓療法を中止したとは考えられない以上、脱落後の試験薬以外による出血リスクも反映されている可能性を指摘。試験薬と大出血の関係をより詳細に解析中だと述べた。
一方、Renato Lopes氏(デューク大学、米国)は、これまでのデータを考えれば、DOAC群における消化管大出血リスクの増加率は、予想の範囲内だと述べた。
本試験はDaiichi Sankyoから資金提供を受けて実施された。同社はまた、試験の設計、解析、原稿作成にも参加した。また本試験は報告と同時に、NEJM誌ウェブサイトで公開された。