スマートウォッチなどの簡便なデバイスを用いて、無症候性の心房細動(AF)検出が可能になりつつある。しかし、そのような積極的なAF検出は脳卒中・塞栓症の抑制につながるのだろうか? ランダム化試験(RCT)“LOOP”の結果は否定的だった。8月27日よりWeb上で開催された欧州心臓病学会(ESC)学術集会にて、Jesper Hastrup Svendsen氏(コペンハーゲン大学、デンマーク)が報告した。
LOOP試験の対象は、70~90歳で、高血圧、糖尿病、脳卒中既往、心不全のいずれかを有し、AF(含・既往)を認めない6004例である。ペースメーカー植え込み例と抗凝固薬服用例は除外されている。
平均年齢は75歳、男性が53%を占めた。CHA2DS2-VAScスコア中央値は4だった。
これら6004例は、心電用レコーダ(Reveal LINQ)植え込み(ILR)群と、通常観察群にランダム化され、64.5カ月間(中央値)観察された。ILR群では、6分以上持続するAFが検出された場合、医師から抗凝固療法が推奨される仕組みになっていた。
その結果、AF検出率は、ILR群で31.8%となり、通常観察群の12.2%を有意に上回った(HR:3.17、95%CI:2.81-3.59)。そして経口抗凝固薬開始率も、ILR群は29.7%(AF検出例の91.0%)と、通常観察群(13.1%、AF検出例の86.5%)よりも有意に高値となった。なおSvendsen氏によれば、抗凝固療法に用いられた薬剤は、ほとんどがDOACだったという。
にもかかわらず、1次評価項目である「脳卒中・全身性塞栓症」リスクは、両群間で有意差を認めなかった(ILR群HR:0.80、95%CI:0.61-1.05)。同様に、2次評価項目の1つである「脳梗塞・TIA・動脈塞栓症」HRも、0.92(0.73-1.15)と有意差を認めなかった。一方、大出血HRは1.26(0.95-1.69)とILR群で増加傾向を認めたものの、総死亡HRは1.00(0.84-1.19)と同等だった。
1次評価項目で有意差が得られなかった理由として、ディスカッションでは以下が指摘された。
1)まず治療対象として考慮すべきAFを「6分以上持続」とした点である。RCT“ASSERT”追加解析では、無症候性AFに伴う「脳卒中・塞栓症」リスクの著増が認められたのは、持続時間が24時間を超えるAFだった。そのためLOOP試験ILR群では、必要のないAF例に対しても抗凝固療法が実施された可能性を否定できない。
2)また対照群におけるAF検出・治療開始率(13.1%)は、試験設計時に想定されていた3%を大きく超えていた。そのため、想定していたほど、両群間の抗凝固療法実施率に差がつかなかった(この高い検出率の理由は不明)。
3)両群間の1次評価項目カプラン・マイヤー曲線の乖離が始まったのは試験開始の2~3年後だったため、観察期間がより長期に及べば、有意差に至った可能性がある。
4)ILR群の非AF例で発生した脳卒中が、治療効果をマスクした可能性はないか―などである。
本試験は研究者主導で実施され、Innovation Fund DenmarkやThe Research Foundation for the Capital Region of Denmark、Medtronicなどから資金提供を受けた。また報告と同時に、Lancet誌ウェブサイトで公開された。