日米欧のガイドラインとも、急性冠症候群(ACS)既往例に対する年1回のインフルエンザワクチン接種を推奨している。ではこの接種を、ACS治療そのものに組み込んだらどうなるだろう。このような仮説を検討したランダム化試験(RCT)“IAMI”が、8月27日からWeb上で開催された欧州心臓病学会(ESC)学術集会で報告された。「インフルエンザワクチン接種は、心筋梗塞(MI)例に対する院内治療の一部として実施されるべきだ」。これが報告者であるOle Fröbert氏(エレブルー大学、スウェーデン)の結論である。
IAMI試験の対象は、2016年から20年のインフルエンザシーズン(10~翌3月)に、MIで搬入された2532例である(75歳超高リスク安定冠動脈疾患も0.3%)。MI発症前にすでにインフルエンザワクチンを接種した例、ワクチン接種予定(患者意思、医師判断)例は除外されている。
当初は北欧2カ国でMI例のみを対象に開始されたが、患者登録が進まないため、地域と対象疾患が拡大された。
平均年齢は60歳、男性が82%を占めた。また21%が糖尿病を合併していた。
これら2532例は、PCI施行後72時間以内、あるいは退院前にインフルエンザワクチンを接種する群と、プラセボ接種群にランダム化され、1年間観察された。
その結果、1次評価項目である「総死亡・MI・ステント血栓症」の発生率は、「ワクチン」群で5.0%となり、「プラセボ」群(7.2%)に比べ、リスクは有意に低下していた(HR:0.72、95%CI:0.52-0.99)。両群のカプランマイヤー曲線は試験開始直後から乖離を始め、3カ月以降はほぼ平行だった。そのためディスカッションでは、この抑制作用はインフルエンザ抑制作用によるものではなく、ワクチンによる直接的保護作用(抗炎症作用など)を介すると推論されていた。
なお、「ワクチン」群における1次評価項目減少は、「年齢」、「性別」、「糖尿病の有無」などに影響は受けておらず、また「ワクチン接種シーズン」間でも有意なばらつきはなかった。
興味深いのは、「CV死亡」が「ワクチン」群で有意に低下していたのに対し(HR:0.59、95%CI:0.39-0.90)、MIリスクは低下していなかった点である(HR:0.86、95%CI:0.50-1.46)。「突然死」、「心不全死」減少の可能性がディスカッションでは指摘されたが、本試験では詳細な死因データを収集していないため、この点の確認は難しいという。
安全性に関し、ワクチン接種による全身性有害事象の増加はなく、局所有害事象も通常と大きく変わるところはなかった。
なお、本試験が当初計画していた登録例数は4000例だったが、COVID-19流行により早期登録終了となった。そのため386例と想定していた1次評価項目発生数は158例にとどまっている。早期中止試験において“Random High”が生じやすい、「イベント数200以下」である点に留意したい。