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(2)裂肛の保存的治療 [特集:若年女性の裂肛を治療する]

No.4816 (2016年08月13日発行) P.31

山口トキコ (マリーゴールドクリニック院長)

登録日: 2016-12-16

最終更新日: 2017-01-20

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  • 裂肛患者の半数以上は排便障害を伴っているため,便秘に対して水分と繊維質を十分に摂取するよう食事指導をしたり,塩類下剤を中心に処方したりすることで,便通を調整することが重要となる

    裂肛患者が傷の痛みや見張り疣により肛門の衛生を保てない場合には,入浴・坐浴が有効である

    局所麻酔薬やステロイド含有の坐薬・軟膏などの外用薬を症状に合わせて適宜使用する

    1. 保存的治療の有効性

    裂肛における的確な保存的治療は,効果的かつ安全であるので,第一段階で行うべきである。保存的治療は便通の調整と外用薬の投与が主となるが,多くの患者で即効性を認め,外科的治療に移行する患者は約1割程度である1)

    2. 便通の調整

    裂肛の第一原因は便秘というより硬便と言うべきであろう。なぜなら,便秘になると便は硬くなり肛門は切れやすくなるが,毎日便が出ていても切れると訴える患者もいるからである。また,硬い便を出すため排便時に強くいきむことで痛みが強くなり,その結果,排便を我慢してさらに便が硬くなるという悪循環に陥ることも多い。
    したがって,便を軟らかくすること,便秘を改善することが最も大切な治療となる。その場合,緩下剤などの薬物を処方する際にも一言,便秘をしないためには食事が大切であるということを強調する必要がある。なぜなら,薬物治療に頼っていれば,薬が切れるたびに裂肛を繰り返すことになり,なかなか完治しないからである。
    硬便に比べると下痢が原因となる頻度はかなり低いが,相当な圧がかかるような下痢では,擦り傷様の小さな傷ができることがある。便秘で切れた後に頻回の下痢を起こすと裂肛が悪化しやすい。
    食事指導で筆者が強調しているのは水分と繊維質の摂取である。消化管においては,正常成人が1日当たり経口摂取した約2Lの液体に加えて,唾液1.5L,胃液2.5L,膵液1.5L,胆汁0.5L,小腸液1Lの計9L程が小腸内に入ると考えられており,そのうち小腸で約7L,大腸で約1.9L吸収され,最終的な便中の水分量は通常100mL程度と言われている2)。つまり,便中の水分量約100mLを確保するためには,1日に約2Lの水分を経口摂取することが望ましいと考えられる。筆者の場合はその内訳を,食事に含まれる水分量を800mLと仮定し,残りの1.2Lをカフェイン入り飲料や炭酸飲料以外の水分で摂取するよう指導している。また,繊維質については,野菜か海藻の中から少なくとも1種類をこれまでの食事に追加するよう話している。便の先端が硬い患者では,水分摂取を増やすことで裂肛が容易に治癒することが多い。
    しかし,痛みが強く,便意を我慢することでさらに便が硬くなり,裂肛が悪化するのを防ぐためには緩下剤の処方を行うことも必要となる。まず,腸管内容物の容量を増加させることで便を軟らかくし,排泄を容易にする機械的下剤から開始するのが一般的である。機械的下剤には,酸化マグネシウムや硫酸マグネシウムなどの塩類下剤や,カルメロースナトリウム(バルコーゼ)といった膨張性下剤があり,どちらも習慣性が少なく作用が緩徐で,長期投与も可能である。また,ルビプロストン(アミティーザ)も腸管内への腸液分泌を増加させ,便を軟らかくして排便を促進するが,妊婦には禁忌であることに留意すべきである。
    機械的下剤での調整が難しい場合,センナやダイオウを含む大腸刺激性下剤を処方することもあるが,下痢,腹痛,骨盤内うっ血などの副作用が起こらないように量を加減すべきである。排便時の痛みに対する恐怖心から,大腸刺激性下剤の市販薬を大量に内服して水様便にして排便している患者がいるが,下剤の適切な使い方を指導すると同時に,肛門狭窄を疑うことも大切である。なぜなら,肛門狭窄があれば,保存的治療の限界と考えて外科的治療も考慮しなければならないからである。

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