超高齢社会を迎えたわが国においては,中高年男性のQOLの維持はきわめて重要となる。主たる男性ホルモンであるテストステロンは加齢とともに分泌量が低下する。加齢男性性腺機能低下症候群(late-onset hypogonadism症候群:LOH症候群)は,「加齢に伴う血中男性ホルモンの低下に基づく生化学的な症候群」と定義される。欧米では45歳以上の男性の約40%で,テストステロン値が低下していると報告されている。わが国では約600万人の潜在患者がいるのではないかと推測される一方,明確な有病率は明らかではない。代表的な症状は,抑うつ,苛立ち,不安,疲労感などの「精神・心理症状」,発汗,ほてり,睡眠障害,肉体的消耗感,筋肉量・筋力低下,骨密度の低下,内臓脂肪の増加などの「身体症状」,性欲低下,勃起障害,射精感消失などの「性機能症状」の3つである。ただし,症状は様々で疾患特異的な症状はない。
低テストステロン血症の確認と,症状の把握に尽きる。低テストステロン血症の基準値については,これまで遊離型テストステロン値が8.5pg/mL未満を治療対象とし,8.5pg/mL以上11.8pg/mL未満まではいわゆる境界型とされてきた。しかし,遊離型テストステロンの測定法が複数回変更されたことに加え,絶対値の国際的な信頼性が乏しいことから,今後は総テストステロン値を用いた基準値が望ましいとされる。総テストステロン値を米国泌尿器科学会では3.0ng/dL未満,欧州泌尿器科学会では3.5ng/dL未満を治療対象としている。わが国では2022年に「診療の手引き」が改訂された。それによれば、総テストステロン値2.5ng/ml未満が治療対象となった。ただし、総テストステロン値が2.5ng/ml以上であっても遊離型テストステロン値が7.5pg/ml未満の場合も治療対象となる。さらに、今回の改定では、より症状の把握を重要視し、「LOH症状が強い場合はテストステロン値に関わらず治療を考慮する」ことが明記されている。
症状の把握には通常様々な質問票が用いられている。Aging Males Symptoms(AMS)rating scaleは,精神・心理症状(5問),身体症状(7問),性機能症状(5問)の17問で構成され,27~36点が軽度,37~49点が中等度,50点以上が重症のLOH症候群となる。性機能症状全般についてはInternational Index of Erectile Function(IIEF),勃起能についてはSexual Health Inventory for Men(SHIM),うつ症状についてはSelf-rating Depression Scale(SDS)やBeck Depression Inventory(BDI)を用いて評価されることが多い。
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