本年9月の欧州心臓病学会で報告されたランダム化試験“EMPEROR-Preserved”は、薬剤によるHFpEF例の転帰改善が初めて示されたと注目を集めたが、対象には左室駆出率(EF)「40-49%」のHFmrEFが33%含まれていたため、厳密な意味でのHFpEF(EF≧50%)における有用性は不明だった。しかし追加解析の結果、真のHFpEFにおいても、SGLT2阻害薬はプラセボに比べ、「心血管系(CV)死亡・心不全(HF)初回入院」リスクを有意に減少させていたことが明らかになった。13日から15日にかけ完全オンラインで開催された米国心臓協会(AHA)学術集会において、Stefan D. Anker氏(シャリテー大学、ドイツ)が報告した。
EMPEROR-Preserved試験の対象は、NT-proBNP上昇を伴う「EF≧40%」の症候性心不全5988例だった。全例、標準的HF治療を実施した上で、SGLT2阻害薬エンパグリフロジン10mg/日群とプラセボ群にランダム化され、二重盲検法で観察された。
今回の解析対象はこれらのうち、試験開始時のEFが「≧50%」だった4005例である。
平均年齢は72.8歳、女性が50%を占めた。虚血性心疾患を基礎とする例は28%のみである(HFmrEF例では50%)。一方、心房細動合併率は56%と、HFmrEF例(46%)に比べ有意に高かった。
これらEF「≧50%」HF例において、SGLT2阻害薬は1次評価項目である「CV死亡・HF初回入院」リスクを、プラセボに比べ相対的に17%、有意に減少させていた(ハザード比[HR]:0.83、95%信頼区間[CI]:0.71-0.98)。また、HFmrEF例との交互作用P値は0.27だった。
ただし両群のカプランマイヤー曲線は、試験開始直後から乖離し始め、その差は約1年後に最大化したものの、その後は群間差が縮小する傾向が認められた。なお、CV死亡のみで比較すると、両群間に差が生じたのは試験開始後およそ18カ月の時点であり、33カ月が過ぎると群間差は縮小していった。
これら1次評価項目中、SGLT2阻害薬群における減少が有意だったのは「HF初回入院」のみである(HR:0.78、95%CI:0.64-0.95)。「CV死亡」は0.89(0.70-1.13)だった。なお、「総死亡」は1.02(0.86-1.21)、また「全HF入院」も0.83(0.66-1.04)と、いずれも有意減少は認められなかった。
次に、試験開始時のEFを「50-<55%」、「55-<60%」、「60-<65%」、「65-<70%」、「≧70%」の5群に分け、SGLT2阻害薬による、「CV死亡・HF初回入院」と「全HF入院」抑制作用を比較すると、EF増加に伴う減弱傾向は認められなかった。
またSGLT2阻害薬群では、QOL、NYHA分類とも、プラセボ群に比べ有意な改善を認めた。
これら「EF≧50%」HFに対するSGLT2阻害薬の有用性機序を探るべく、各種指標を検討したが、HbA1c、ヘマトクリット、NT-proBNP、体重ともSGLT2阻害薬群で有意改善を認めたものの、群間差はきわめて小さかった。
本試験は、Boehringer IngelheimとEli Lillyの資金提供を受けて実施された。