【質問者】
桑原慶充 日本医科大学産婦人科准教授
妊娠高血圧症候群は,かつては子癇前症・妊娠中毒症と呼ばれ,高血圧・蛋白尿・浮腫を3主徴としていた疾患ですが,現在は予後に直接相関する高血圧のみを診断の基準とし(妊娠高血圧),蛋白尿をその重症化の指標とする(妊娠高血圧腎症)ことが定められています。以前は「学説の疾患」とも揶揄されるほど原因不明の疾患でしたが,今世紀に入り(特に早発・重症型の多くが)胎盤形成不全,それも初期の子宮らせん動脈の分解不良(妊娠12~14週)に端を発する,妊娠後期の血流不全や全身性炎症が本態であることがわかってきました。もちろん,これ以外にも母体のインスリン抵抗性や免疫学的機序が関わるため単一の原因では説明できませんが,病態解明の勢いが一気に増した感があります。
世界的な話題としては,早期の発症予知マーカーの同定が挙げられます。可溶型血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)受容体であるsFlt-1や胎盤増殖因子(placental growth factor:PlGF)の早期発症予測への期待が高まっており,大規模コホート研究や検査キットの発売が始まっています。ただ,わが国では欧米と異なり,肥満がベースにある妊娠高血圧症候群が少ないことから,その有用性やカットオフ値については若干の差異があると考えられており,現在まだ研究段階にあります。またこれとは別に,妊娠初期の母体血中胎児DNAを用いた発症予測も(胎児出生前診断の普及の影響を受けて)研究が進んでおり,将来は胎児染色体異常と同時に初期の検査メニューに含まれる時代が来るかもしれません。
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