消化管穿孔は,種々の原因で消化管に孔(perforation)が開き,消化管内容物や腸液が腹腔内に漏出して,汎発性腹膜炎を引き起こす重篤な救急疾患である。原因としては,外傷,異物,潰瘍性病変,炎症,腸管の血流不全,絞扼性イレウスによるもの,憩室,がん,医原性などがある。
上部消化管穿孔の原因疾患としては胃・十二指腸潰瘍が多くを占める。ほかに胃癌,激しい嘔吐に伴う特発性食道破裂,腹部外傷,腐食性物質の誤嚥,医原性(内視鏡検査,治療)などがある。近年,胃・十二指腸潰瘍についてはH2受容体拮抗薬(H2RA),プロトンポンプ阻害薬(PPI),ピロリ菌除菌療法の登場により外科的治療は激減したが,胃・十二指腸潰瘍による穿孔の発生そのものは減少していない。特に,NSAIDs内服により潰瘍合併症(穿孔,出血)のリスクは増大する。
下部消化管穿孔には,小腸では急性虫垂炎,メッケル憩室炎,大腸では憩室炎,炎症性腸疾患,中毒性巨大結腸症,閉塞に伴う穿孔などがある。
血管新生阻害薬(ベバシズマブ,イマチニブメシル酸塩,スニチニブリンゴ酸塩,ラムシルマブなど)に共通した有害事象として,消化管穿孔がある。血管強度を維持する血管内皮細胞と血小板の相互作用が阻害されることにより生じる可能性があり,血管新生阻害,腸虚血などが関わるとされるが,予防法は確立されていない。
診断は通常,画像検査による腹腔内の遊離ガス(free air)の証明により確定する。穿孔性腹膜炎診断では確定診断に至ることが最も重要であり,一般に緊急手術により治療される。
胃・十二指腸の穿孔では胃液,胆汁などの消化液が腹腔内に流出するため,突然の上腹部痛を主訴とし,重度かつ汎発性の腹痛,圧痛および腹膜刺激徴候を伴うことが多い。腸雑音は低下し,時に疼痛は肩に放散する。
消化管のほかの部位の穿孔は,当初は軽度のことも多い。大網で被覆されるため,疼痛は徐々に出現し,圧痛もより限局的であることがある。
末梢血液検査では,炎症反応としての白血球増多,CRP上昇を認める。ただし,発症後短時間ではCRP値はまだ正常であり,注意が必要である。消化管穿孔では血管内脱水となるため,BUNが上昇することが多い。血小板数の減少や血液凝固時間の延長が認められる場合は,いわゆる播種性血管内凝固症候群(DIC)に近い状態であり,非常に重症であると考え,直ちに緊急手術の適応となる。
動脈血ガス分析でアシドーシスや動脈血CO2分圧の低下(過呼吸)が認められる場合はきわめて重症であり,短時間で循環動態が悪化する可能性がある。直ちに手術開始の準備を行う。
胸部・腹部X線検査では,立位で横隔膜下にfree airを認める。立位が困難な際には左側臥位(decubitus位)で肝表面のfree airを確認する。X線検査でのfree airの診断精度は70~80%であり,病歴や症状,腹部所見から消化管穿孔が疑わしい場合にはCT診断が必要である。
腹部CT検査では,上部消化管穿孔でのfree airの検出率は90%以上であり,少量のfree airや腹水の検出も可能である。また,穿孔部位や原因の特定,潰瘍や腹膜炎の合併の評価も可能であり,治療方針決定のために有用である。
一連の腹部X線検査が診断の決め手にならない場合は,経口的あるいは経静脈的な造影剤を用いた腹部CTが有効なこともある。ただし,穿孔の疑診時にバリウムの使用は禁忌である。
腹部超音波検査は腹水の検出に有用である。
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