【ドセタキセル,アルファラジン,エンザルタミドへの治療変更も考慮】
67歳の男性で,診断時のgleason scoreや臨床病期(ステージ分類)が不明ですが,治療開始2年後に右骨盤骨転移の増悪(新規出現?)はあったものの,同部位に対する放射線治療後はリュープロレリン(リュープリン®)+ビカルタミド(カソデックス®)による内分泌療法が計約4年間奏効,その後のアビラテロン(ザイティガ®)+プレドニゾロン(プレドニン®)も約3年の病勢コントロールをもたらしている症例です。ザイティガ®+プレドニン®の治療開始後のPSA nadir値はX+5年4月19日(治療変更後約10カ月)の0.104 ng/mLで,そこから約2年かけてPSA値は単調に0.479ng/mLまで上昇,直近3回のPSA値から算出したPSA倍化時間(PSA doubling time:PSA-DT)は約12カ月となっています。
画像上・臨床上の進行はないと仮定すると,本患者において病勢進行を表す指標は,現在のところ血清PSA値のみということになります。
Prostate Cancer Clinical Trials Working Group(PCWG)3の推奨1)によると,本症例のような遠隔転移を伴う去勢抵抗性前立腺癌(metastatic castration-resistant prostate cancer:mCRPC)の治療にあたっては,血清PSA値上昇を唯一の指標として病勢進行と判断する場合には,PSAの絶対値が1.0ng/mLを超えて連続上昇することが条件とされています。したがって,もし未実施であれば骨シンチグラフィやCTといった画像による評価を行い,進行がないことが確認できれば現行の治療を継続することも有力なオプションのひとつということになります。
PSA値が1.0ng/mLを超えて上昇してきた場合には,画像上・臨床上の進行を伴うかどうかにもよりますが,ドセタキセル,アルファラジン,エンザルタミドへの治療変更がオプションとして上がってくるかと思います。
新規アンドロゲン受容体(androgen receptor:AR)シグナル阻害薬に抵抗性の患者ですので,全身状態が許せば別の新規ARシグナル阻害薬(エンザルタミド)よりもドセタキセルを使用すべきという意見が近年は主流です2)。アルファラジンはもし骨シンチグラフィで集積を認める病変が検出され,CT等で他の臓器転移が認められない場合には良い適応となるかと思います。エンザルタミドは患者がドセタキセル投与に不適格な場合,外来通院での加療継続を強く希望される場合などには選択肢として考慮してもよいかと思います。
我々は,アビラテロンに対して抵抗性となったCRPC患者におけるエンザルタミド治療のPSAレスポンス率(PSA値が50%以上低下した患者の割合)は約40%で,奏効期間は約4カ月であったと報告しています3)。アルファラジンやエンザルタミドを使用する場合には,その後にドセタキセル,カバジタキセルという抗癌剤治療を実施するタイミングを逸さないことが重要になります3)ので,PSA 1.0ng/mLを超えて上昇してきた時点で,現在のPSA-DTが維持されていること,画像上もそれほど急速な進行を示していないことを確認されるとよいかと思います。
以上簡単ではございますが,本患者における治療方針決定の一助として頂ければ幸いです。
【文献】
1)Scher HI, et al:J Clin Oncol. 2016;34(12): 1402-18.
2)Chi K, et al:Ann Oncol. 2015;26(10):2044-56.
3)Kobayashi T, et al:Clin Genitourin Cancer. 2020;18(1):e46-e54.
【回答者】
小林 恭 京都大学大学院医学研究科泌尿器科学教授
小川 修 京都大学大学院医学研究科名誉教授