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腹部外傷[私の治療]

No.5115 (2022年05月07日発行) P.43

佐藤幸男 (慶應義塾大学医学部救急医学教室)

登録日: 2022-05-04

最終更新日: 2022-05-02

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  • JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)またはATLS(advanced trauma life support)に基づいた診療手順で行う。生理学的徴候に基づく評価と蘇生(primary survey with simultaneous resuscitation)と解剖学的な評価(secondary survey)から構成される。受傷機転,損傷力,損傷部位,循環動態が腹部外傷の評価の優先度を決定する。

    ▶病歴聴取のポイント

    受傷機転については,自動車事故では車の速度が速いほど,衝突の向きが患者に直達的であるほど,転落外傷では高さが高いほど,重症な外傷を生じている可能性が高いとして診療に当たる。鋭的損傷では成傷器が何か,創は何箇所か,現場での外出血量はどのくらいか,が診療上必要な情報である。

    ▶バイタルサイン・身体診察のポイント

    腹部外傷の初期の死亡原因は出血性ショックであり,ショックの原因は95%が出血性である。よって,ショックの徴候を見逃さない。primary surveyのcirculation with hemorrhage controlで意識レベルの低下,蒼白した四肢の皮膚所見,頻脈,中心脈波(大腿動脈や頸動脈)の消失はショック状態を示唆する。ショック状態の患者では,蘇生と同時に素早く腹部損傷がその原因でないかを見きわめる。

    secondary surveyで実施する身体診察では,内科的診察と同様に視診・聴診・打診・触診を実施し,腹部の膨隆,打撲痕,腹膜刺激症状の有無を評価する。異常があれば腹腔内臓器損傷を疑う。たとえば,腹壁のシートベルト痕では管腔臓器損傷の可能性を考えることになり,肉眼的血尿は泌尿生殖器損傷(腎,尿管,膀胱)を示唆する所見である。身体所見をとり終えたら,低体温を回避するために体幹をブランケットで覆う。

    ▶緊急時の処置

    ショック状態のときは大量輸血プロトコルに基づいて輸血を開始する。これを実施するには,あらかじめ施設ごとにプロトコルを策定する必要がある。

    自施設で治療を完結できない患者,より高次医療施設への転送が必要な患者を早期に認識し,診断に不必要な検査は行わず全身状態を安定化させる。

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