医療・介護関連肺炎(nursing and healthcare-associated pneumonia:NHCAP)の定義は,①療養病床に入院している,もしくは介護施設に入所している,② 90日以内に病院を退院した,③介護を必要とする(PS≧3)高齢者,身体障害者,④通院にて継続的に血管内治療(透析,抗菌薬,化学療法,免疫抑制薬等)を受けている,のいずれか1項目以上を満たす肺炎である。
耐性菌リスクや予後の点からは,市中肺炎と院内肺炎の中間的な性質を示し,また,高齢者の繰り返す誤嚥性肺炎や疾患終末期・老衰期の肺炎が含まれやすいため,倫理的配慮も重要となる。
高齢者では,発熱,咳嗽,喀痰,呼吸困難といった肺炎の典型的な症状を呈さず,倦怠感,食欲低下,ふらつき・転倒,体動困難といった非特異的な症状が主体となることも多く,注意が必要である。
治療方針を決める上で重要となるのが,患者背景,敗血症の有無,肺炎の重症度,耐性菌リスク,誤嚥性肺炎の評価である。
NHCAPには繰り返す誤嚥性肺炎の症例や,疾患終末期・老衰期の症例が含まれやすい。このような症例では,人工呼吸器管理等の侵襲的な治療はQOLを著しく損なう可能性があり,個人の意思やQOLを考慮した治療・ケアを行うことが推奨される。これらに該当しない場合は下記の評価を行い,治療方針を決定する。
敗血症の状態となっていないかについて,qSOFAスコアおよびSOFAスコアを用いて判断する(詳細は「日本版敗血症診療ガイドライン」を参照)。また,肺炎そのものの重症度もA-DROPスコアにより判断する(A-DROPスコアの詳細は「市中肺炎(成人)」の稿を参照)。敗血症の状態やA-DROPスコアで重症以上の場合は,ICUまたはこれに準ずる病室での管理と,広域抗菌薬による治療を基本とする。敗血症ではなく,A-DROPスコアで中等症の場合は,一般病棟入院で管理する。A-DROPスコアで軽症の場合は外来治療も可能である。
耐性菌リスク因子として,①過去90日以内の経静脈的抗菌薬の使用歴,②過去90日以内に2日以上の入院歴,③免疫抑制状態,④活動性の低下(PS≧3,バーセル指数<50,歩行不能,経管栄養または中心静脈栄養)を評価し,2項目以上を満たす場合に「リスクあり」と判断し,広域抗菌薬による治療を考慮する。
誤嚥性肺炎は,基礎疾患として脳血管障害,認知症,全身衰弱・長期臥床等があり,画像所見で下肺野(下葉),背側優位の浸潤影を呈している場合に疑われる。原因菌として口腔内連鎖球菌や,嫌気性菌(特に口腔内が不衛生な場合)が重要であり,抗菌薬選択の際はこれらのカバーを考慮する。
喀痰グラム染色や尿中抗原検査で原因菌が推定できる場合は標的治療を行うが,推定できない場合は下記に示したエンピリック治療を行う。治療開始前に,喀痰培養検査,血液培養検査を提出する。高齢者肺炎では結核も含まれる場合があり,疑われる症例では喀痰の抗酸菌染色,抗酸菌PCR,抗酸菌培養検査,インターフェロンγ遊離試験の実施も考慮する。
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