まず気道確保と頸椎保護,呼吸,循環(ABC)に対する緊急時の処置の必要性を判断し,最優先する。ついで,頭蓋内損傷(脳挫傷や外傷性頭蓋内出血)の疑いがあれば速やかに頭部CTを撮影する。その後,専門医への紹介の必要性を検討し,頭皮の創傷処置を行う。
受傷時刻:受傷からおおむね6時間までは急性増悪(いわゆるtalk and deteriorate)に備えた診療を行う。
以下のいずれかに該当すれば,速やかに頭部CTを撮影する1)2)。
・2回以上の嘔吐〔小児(15歳以下)では来院まで3回以上の連続しない嘔吐,あるいは来院後の嘔吐〕。
・外傷後てんかん。
・30分を超える逆行性健忘。
・65歳以上もしくは小児で受傷時の意識消失または健忘がある。
・易出血性の既往歴または抗凝固薬治療中。
・危険な受傷機転(歩行者または自転車と自動車の衝突事故,自動車からの車外放出,小児ではすべての高速走行での交通事故,1mまたは階段5段よりも高所からの転落事故)。
・小児では偶発的事故による受傷ではない疑いがある(虐待を示唆する)。
以下のいずれかに該当すれば,速やかに頭部CTを撮影する1)〜3)。
・意識障害(GCS 14以下)を伴う高血圧かつ徐脈(頭蓋内圧亢進によるCushing現象の疑い)。
・来院時GCS 12以下(15歳以下ではGCS 13以下あるいは異常な傾眠)。
・受傷後2時間でGCS 14以下。
・意識障害(GCS 14以下)を伴う瞳孔不同あるいは対光反射の左右差(脳ヘルニアの疑い)。
・頭蓋骨開放骨折あるいは陥没骨折が疑われるとき。
・乳児では大泉門の緊張あるいは5cmを超える外傷(打撲,腫脹,挫創)。
・頭蓋底骨折のサイン〔鼓膜内出血,パンダの目(眼窩周囲の皮下出血),髄液耳漏・鼻漏(サラサラした血性の流出),バトルサイン(耳介後方の乳様突起部の皮下出血)〕。
・神経学的局所症状〔運動反応では特に片麻痺,脳神経では特に視力・視野(Ⅱ),対光反射と眼球運動(Ⅲ・Ⅳ・Ⅵ),小脳症状〕。
一手目 :酸素投与
歩行来院患者を除き,原則として高濃度酸素(リザーバー付マスクで10L/分)を投与する。
二手目 :気道確保
気道閉塞の疑いがあれば,直ちに用手的に下顎挙上法で気道を確保する。外傷患者では頭部後屈は禁忌である。重症頭部外傷(GCS 8以下)では,経口気管挿管による確実な気道確保を行う。
三手目 :頸椎保護
脊椎・脊髄損傷の合併が否定できるまでは,硬性頸椎カラーを装着,もしくは用手的に頭部を正中中間位に固定する。
四手目 :呼吸補助
低換気が疑われれば,バッグバルブマスクで換気を補助する(管理目標はSpO2≧98%3)4))。盲目的な過換気は禁忌である。換気回数は5秒に1回として,胸郭の動きが最小限確認できる換気量に留意する。過換気はPaCO2の低下により脳血管を収縮させて,脳灌流圧の低下をまねき二次的脳損傷を増悪させる1)。
五手目 :血圧管理
出血性ショックに対しては脳灌流圧維持のため,細胞外液500~1000mLの急速輸液(管理目標は収縮期血圧>110 mmHg3)4))を行い,赤血球液輸血の適応を検討する。高血圧に対しては,安易に降圧薬を使用しない。頭蓋内圧亢進に伴うCushing現象に対して降圧薬を使用すると,脳灌流圧を低下させて二次的脳損傷を増悪させる1)。
六手目 :てんかん発作に対する薬剤投与
外傷後てんかんを起こしている場合は,「痙攣」の稿を参照のこと。
七手目 :応急止血処置2)
開放創からの出血が持続しているときは,ガーゼをあてて圧迫止血を図る。浅側頭動脈や後頭動脈からの拍動性出血に対しては,直ちに手指で中枢側の創縁を頭蓋骨に圧迫して出血をコントロールする。
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