DELIVER試験の結果が明らかになり[Solomon SD, et al. 2022.]、SGLT2阻害薬による、左室収縮能の著明低下を認めない心不全(HFmrEF/pEF)転帰改善のエビデンスは、昨年本学会で報告されたEMPEROR-Preserved試験[Anker SD, et al. 2021.]と併せ、2つになった。
そこで、これら2つのランダム化比較試験(RCT)のメタ解析が実施され、バルセロナ(スペイン)で開催された欧州心臓病学会(ESC)学術集会にて27日に報告された。報告者はMuthiah Vaduganathan氏(ハーバード大学、米国)。
本メタ解析は、今回報告されたDELIVER試験の結果が明らかになる前に計画されたものである。評価項目はEMPEROR-Preserved試験の1次評価項目である「心血管系(CV)死亡・心不全初回入院」とした。DELIVER試験では1次評価項目が異なったため、患者個別データを用い、あらためてこの評価項目を再解析した。
試験対象は、EMPEROR-Preserved試験、DELIVER試験とも、若干の違いはあるものの、基本的に左室駆出率(EF)「>40%」の症候性心不全である。両試験合わせ、1万2251例という規模の解析になった。
その結果、SGLT2阻害薬群における「CV死亡・心不全初回入院」の、対プラセボ群ハザード比(HR)は、0.80の有意低値となった(95%信頼区間[CI]:0.73-0.87)。
しかし内訳を見ると、SGLT2阻害薬群で有意なリスク減少を認めたのは「心不全初回入院」のみであり(HR:0.74、95%CI:0.67-0.83)、「CV死亡」は有意差に至らなかった(同:0.88、0.77-1.00)。「総死亡」も同様に、有意なリスク減少は認められなかった(同:0.97、0.88-1.06)。
次に、同評価項目を試験開始時のEF別に解析すると、「41-49%」、「50-59%」、「≧60%」群のいずれにおいても、SGLT2阻害薬群ではリスクが有意に減少していた。また、EF高低が抑制作用に及ぼす交互作用P値は0.42だった。
さらに、「年齢」、「人種」、「BMI:30kg/m2の上下」、「心房細動(AF)合併の有無」などでわけた13のサブグループすべてで、SGLT2阻害薬による「CV死亡・心不全初回入院」抑制作用は一貫していた。
これらよりVaduganathan氏は、患者背景やEFの高低を問わず、SGLT2阻害薬は心不全に有効だと述べた。
本解析は報告と同時に、Lancet誌ウェブサイトにて無料公開されている[Vaduganathan M, et al. 2022.]。
なお本学会では、少数例ながらもう1つ、関連する興味深い報告があった。 イタリアで外来HFpEF患者75例を解析したところ、EMPEROR-Preserved試験、DELIVER試験に参加可能な背景因子を持つ患者の割合は、それぞれ18.1%と17.6%のみだった[Tarantini R, et al. 2022.]。