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たこつぼ症候群[私の治療]

No.5137 (2022年10月08日発行) P.42

加藤 賢 (千葉大学大学院医学研究院循環器内科学診療講師)

登録日: 2022-10-10

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  • たこつぼ症候群は,症状や心電図変化,左室壁運動異常など,急性冠症候群に類似した発症様式を示すことから,急性冠症候群の重要な鑑別疾患のひとつである。高齢女性に多く発症し,精神的または身体的ストレスが先行することが多いなどの特徴があるが,その病態は十分に解明されていない。

    ▶診断のポイント

    診断の大原則として,「絶対にST上昇型心筋梗塞(STEMI)を見逃さないこと」が挙げられる。初回接触時の心電図でST上昇を認めた場合は,必ずSTEMIを念頭に,確実な除外のため緊急冠動脈造影検査(CAG)を考慮する。特に他の重症疾患が身体的ストレスとなってたこつぼ症候群を発症したと考えられる場合,もしSTEMIであったとしてもそれが予後規定因子とはならないほど全身状態が悪い場合(重症くも膜下出血,重症敗血症など)のみ,緊急CAGを見送ることが許容される。その場合は心電図,心筋逸脱酵素の推移を注意深く観察し,STEMIである可能性が高まった場合はその時点で再度CAGの施行を検討する。たこつぼ症候群である可能性が高ければ心エコーでの壁運動評価を継続的に行い,壁運動が完全に正常範囲まで回復することを確認する。全身状態が安定した段階でCAGまたは冠動脈CTを行い,冠動脈疾患を確実に除外することが望ましい。

    たこつぼ症候群を疑った場合のカテーテル検査における最も重要なポイントは,「壁運動異常部位が冠動脈の支配領域に一致していないことを証明する」ことである。冠動脈の支配領域に一致している可能性を否定できない場合は,そこに狭窄を疑う病変があれば血管内画像検査,狭窄がなければ攣縮の可能性を考慮してアセチルコリン負荷試験の追加施行を検討する。これらによって壁運動異常を説明しうる冠動脈の一過性閉塞(自然再疎通)や攣縮が否定されれば,冠動脈支配領域に偶然一致する部位の壁運動異常を呈したたこつぼ症候群と診断することができる。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    たこつぼ症候群は症例数が比較的少ないため,前向き無作為化試験によって有効性を示された治療法は一切なく,後ろ向き試験によって得られたエビデンスを参考に病態に合わせた保存的治療を行う1)。元来予後良好であると考えられていたが,約4割の症例では心不全や心原性ショック,不整脈などの合併症を呈する2)。これらの合併症は,主に壁運動異常が最も顕著である急性期に観察されることから,左室壁運動異常が回復するまでの数週間をいかに乗り切るかが,たこつぼ症候群患者の管理においてきわめて重要である。

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