デジタルを活用して、医療現場の課題を解決するサービスが数多く開発されている。医療リソースの偏在という課題の解決に向け、オンライン専門医相談サービス「E-コンサル」を提供するMediiの山田裕揮代表に話を聞いた。
起業は、日本の医療が抱える課題を解決するための手段の1つです。日本の医療は、患者さんが同じ保険料を払っているのに、医療リソースつまり専門医が地域的に偏在しているために、受けられる医療に差があります。特に難病領域はこの傾向が強く、例えば私のような膠原病内科医は2000人あまりしかいません。全国くまなく専門的な医療を提供することは難しく、国も効果的な打開策を打ち出せていない状況です。専門医リソースの最適化という課題解決のアプローチを具現化するために、医療とは別の力学を働かせながら仕組み化する必要があると感じ、起業という道を選んだのです。
医療機関では院内に専門医がいれば、日常的に臨床の疑問や不安を解決するために院内コンサルが行われています。E-コンサルは専門医がいない場合でも遠隔で相談でき、コンサルティングを受けられるようにした、いわば“院外コンサル”サービスです。現在は院内に相談できる専門医がいない場合、知り合いや医学部の同期に電話やメール、SNSなどで連絡を取り、院外コンサルを行わざるをえない状況があります。それをプラットフォーム化し、インターネットを通じて広く迅速に可能にしたのがE-コンサルです。E-コンサルが認定した難病や希少疾患の診断・治療に詳しい先生から、匿名かつ1対1で気軽にコンサルを受けることができるサービスです。
1つ目は、チャットで質問できるので、やり取りが早くスムーズという点です。早い場合では10分程度、平均60分でレスポンスを受けられる形になっています。
もう1つは回答の質が高いということです。これは私が医学部時代から勉強会を開催して横のつながりを広げ、「紹介の紹介」という形で色々な先生に相談して培ってきた人脈が生きています。E-コンサルを立ち上げるに当たり、これまでお付き合いをさせていただいてきた先生に協力を依頼したところ、ほぼ全員が趣旨に賛同してくださり、質問に回答する専門医は錚々たるメンバーが揃っています。この点もE-コンサルの強みです。
患者さんにとっては、いつでも専門医に相談ができる“クラウドホスピタル”化したクリニックをかかりつけにしたいという気持ちが強いはずです。やがては「E-コンサル導入施設」というようなマークを作成して、医療機関のホームページ上に表示することで集患につながるようなサービスに成長させていきたいと考えています。
日常的に行っている知り合いや友達への院外コンサルにはお金がかからないこととそうした場合の回答に診療報酬点数がついていないという2つの理由から、無料で利用できる形にしました。私は自身が難病で苦しむ患者であり、かつ難病の専門医でもあります。全国どこでも難病や希少疾患の専門的な治療が行えるようにという、私と同じような問題意識や想いを持っている多数の先生方のお蔭で、現在ではすべての専門領域をカバーできるようになりました。
E-コンサルはあくまで通過点にすぎません。我々が目指すのは、属人化・暗黙知化されている難病や希少疾患の知見を集合知化し、全国の臨床医に活用してもらうプラットフォームを構築することです。現在は極端にいうと、1000件の症例を1000人の医師で診ている状況です。これらの知見を共有できる場所を作り、あたかも多くの症例を経験したかのような感覚で目の前の1人の患者さんを診ることができれば、難病や希少疾患であっても診断・治療の質は飛躍的に向上します。E-コンサルはそのファーストステップです。
E-コンサルと並行して「症例バンク」というサービスをスタートします。過去にE-コンサルでやり取りされた内容や過去に学会等で発表された症例、論文などを知見として取り込みます。例えば同じ疾患であっても捉え方は学会によってバラつきがありますが、どれも捉え方は正しいので、それを1つの疾患に関する知見として構造化し、現場の医師に最適な形で提供していくことを目指しています。
我々のサービスには医療連携をスムーズにする効果もあると考えています。例えば関節リウマチの治療薬でも最近はバイオ医薬品が増えていて、病院側は「使い慣れていない開業医の先生にお任せして大丈夫かな」、患者さんは「難しい薬と聞いたから大学病院の方が安心」というそれぞれの思いがあり、結果として大学病院に継続受診することになってしまいます。Do処方や血液検査のためだけに月2回遠くまで通院するのは、患者さんの負担だけでなく機能分化の観点からも避けるべきです。
E-コンサルや症例バンクを通じて最新治療に関する知見を多くの医師に共有してもらうことで、日頃の処方は開業医、年1回は大学病院で検査という医療連携が可能になると考えています。(聞き手:土屋 寛)