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「因果の逆転」とは何か?

No.5144 (2022年11月26日発行) P.52

野尻宗子 (順天堂大学革新的医療技術開発研究センター 准教授)

黒木 学 (横浜国立大学大学院工学研究院 知的構造の創生部門教授)

登録日: 2022-11-24

最終更新日: 2022-11-21

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“因果の逆転(reverse causation)”について,ご教示下さい。(東京都 F)


【回答】

 【原因と結果の関係(因果関係)が,本来の関係でなく,「逆の向き」で判断されることをいう】

2つの事象“X”と“Y”の因果関係について,「XがYの原因である」ことが本当の因果関係であるにもかかわらず,「YがXの原因である」ように見える(判断される)ことを,“因果の逆転(reverse causation)”と言います1)

私たちは,データから相関係数(統計的関連性)を計算した後,その結果を,因果関係の立場から解釈することがあります。この解釈が本来の因果関係と異なるとき,因果の逆転が起こることがあります。

たとえば,新型コロナウイルス感染症(COV ID-19)の発生率に関して地域ごとに病床数を観察すると,発生率が高い地域では病床数が多いということがわかったとします。この事実をもとに,「病床数が,COVID-19の発生率の原因である」と結論づけることは,明らかに間違っていることがわかると思います。なぜなら,病床数を減らしても,COVID-19の発生率を下げられるはずがないからです。それにもかかわらず,「病床数が,COVID-19の発生率の原因である」と判断されることが,因果の逆転にあたります。

統計的因果推論を適切に行うためには,対象とする現象についての適切な背景知識を持って,“因果の向き”を正しく認識しておくことが大切です。実際,現象に対する理解が乏しくなればなるほど,因果の向きを正しく理解することは難しくなります。

たとえば前述の例に関連して,今度は,COV ID-19の重症率に関して地域ごとに病床数を観察すると,重症率が高い地域では病床数が足りていないということがわかったとします。このとき,「重症率が高いから,病床数が足りていないのか」,「病床数が足りていないから,重症率が高いのか」といった疑問に答えるのは,(現時点では)大変難しいのではないかと思います。

疫学研究の結果の解釈において,しばしば,因果の逆転を考慮せずに誤った結論を導き出すことがあるので,留意が必要です2)3)

なお,実験研究の場合には,Xに介入を行ったときにYの分布状態が変化すれば「XはYの原因である」と判断することができ,Xに介入を行ったときにYの分布状態が変化しなければ「XはYの原因ではない」と判断することが可能となります。ただし,実験研究においては,「はたして実験を行うことが許されるのか?」ということが大きな議論になるかと思います。

ここで,再びCOVID-19の例を取り上げ,仮に「COVID-19の発生率が,病床数の原因になっていることを実験で示したい」と考えたとします。その場合,COVID-19の発生率に介入し,意図的に流行させることができれば,病床数が変化するかどうかを観察できることになりますが,このような実験は倫理的観点から不可能であると思われます。

[謝辞]レビューを頂きました横浜国立大学大学院生の川上裕大君に,感謝の意を表します。

【文献】

1)Porta M, ed:A Dictionary of Epidemiology. 6th ed. Oxford University Press, 2014.

2)林 岳彦, 他:相関と因果と丸と矢印のはなし─はじめてのバックドア規準. 岩波データサイエンスVol.3. 岩波データサイエンス刊行委員会, 編. 岩波書店, 2016, p28-48.

3)黒木 学:構造的因果モデルの基礎. 共立出版, 2017.

【回答者】

野尻宗子 順天堂大学革新的医療技術開発研究センター 准教授

黒木 学  横浜国立大学大学院工学研究院 知的構造の創生部門教授

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