薬剤性腸炎は,薬剤の投与により腸管にびらんや潰瘍などの炎症性変化が生じ,下痢,血便,腹痛などの臨床症状を呈する疾患である。抗菌薬投与後に起こる偽膜性腸炎や出血性腸炎,非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)起因性腸炎,collagenous colitis,免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象(irAE)などがある。
診断には,①原因薬剤の使用歴がある,②糞便などの培養検査で病原細菌が陰性である,③病理組織学的に血管炎や肉芽腫などの特異的所見がない,④薬剤の中止のみで改善を認める,といった点を確認する。
偽膜性腸炎ではClostridioides difficile(CD)が産生するトキシンを検出し,内視鏡で偽膜形成を確認する。NSAIDs起因性大腸病変は,内視鏡像から潰瘍型と腸炎型に大別される。collagenous colitisはプロトンポンプ阻害薬(PPI)やNSAIDsによるものが多く,ひっかき傷様の線条や幅の狭い縦走潰瘍などが特徴的である。irAE大腸炎では,潰瘍性大腸炎に類似した内視鏡像を呈し,病理組織学的に陰窩のねじれや陰窩膿瘍,上皮細胞アポトーシスなどを認める。殺細胞性抗癌剤のイリノテカン(CPT-11)やフルオロウラシル(5-FU)による消化管傷害も発現頻度が高く,併用例ではirAE大腸炎との鑑別に注意が必要である。
薬剤性腸炎の治療の原則は,原因となる薬剤を同定し,薬剤を中止することである。抗菌薬による出血性大腸炎,PPI,NSAIDsなどによる薬剤性腸炎は薬剤中止と対症療法だけで軽快することが多い。治療薬の投与が必要となるのは,トキシンが検出され下痢症状を伴う偽膜性腸炎(CD感染による腸炎)とGrade 2以上のirAE大腸炎である。
CD感染による腸炎の初発かつ軽~中等症ではフラジールⓇ(メトロニダゾール)が第一選択であり,重症の場合はバンコマイシン高用量を選択する。再発例では,バンコマイシンあるいはダフクリアⓇ(フィダキソマイシン)を第一選択とし,難治例ではバンコマイシンのパルス・漸減療法も考慮する。重症化または再発リスクの高い患者には,抗トキシンB抗体であるジーンプラバⓇ(ベズロトクスマブ)の使用を考慮する。
irAE大腸炎のGrade 2以上では,免疫チェックポイント阻害薬の投与は休止し副腎皮質ステロイドを投与する。ステロイドの投与にもかかわらず症状が持続する場合は,レミケードⓇ(インフリキシマブ)の投与を行う。近年,ステロイド抵抗性irAE大腸炎に対するエンタイビオⓇ(ベドリズマブ)の有効性が報告されている。
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