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[最新解説]前立腺肥大症の新しい低侵襲治療

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  • 3. 新規低侵襲治療のコンセプト

    従来の外科治療は,①切除〔経尿道的前立腺切除術(transurethral resection of the prostate:TURP)〕,②ホルミウムレーザー前立腺核出術〔(holmium laser enucleation of the prostate:HoLEP)など〕,③蒸散〔532nmレーザー光選択的前立腺蒸散術(photoselective vaporization of the prostate:PVP)など〕,に大別される。いずれの方法も,腫大した腺腫を即時的に除去することによって前立腺部尿道に空洞(cavity)を作成し,前立腺部尿道の機械的閉塞と機能的閉塞の双方を改善するものである。

    経尿道的前立腺吊り上げ術は,腺腫の除去を一切行わず,数本のワイヤーを使用して前立腺部尿道腹側の開存を図る方法である(channeling)。また,経尿道的水蒸気治療は,腺腫内に刺入した針から水蒸気を噴出させることにより組織内凝固を図る方法であり,これも即時的な腺腫の除去を伴わない。穿刺針からラジオ波を放出する経尿道的針焼灼術(transurethral needle abulation:TUNA)および穿刺針からレーザーを照射する組織内レーザー凝固術(interstitial laser coagulation of the prostate:ILCP)と同様に,凝固壊死した腺腫は時間経過とともに吸収され膀胱出口部閉塞が改善するが,TUNAやILCPとは区別される作用機序により,効果は長期にわたって持続する。

    従来の外科治療は,標準治療(reference standard)であるTURPとの無作為化比較試験により有効性と安全性が検討されてきた。一方,新規の低侵襲治療である経尿道的前立腺吊り上げ術と経尿道的水蒸気治療の比較対照はシャム手術であり,安全性・低侵襲性を重要視している印象がある。

    4. 経尿道的前立腺吊り上げ術(PUL)

    経尿道的前立腺吊り上げ術(prostatic urethral lift:PUL)は,腺腫により閉塞した前立腺部尿道腹側を,永久的インプラントにより開存させて膀胱出口部閉塞を改善する治療法である。前立腺部尿道の開存を確保するとのコンセプトは尿道ステントに近いが,逸脱や感染などの尿道ステントの欠点が克服されている。わが国では,2022年4月に保険適用となった。

    1 手技

    PULに使用される機器は,UroLiftシステムであり,デリバリーハンドル,インプラントカートリッジおよびインプラントより構成される。インプラントは,前立腺被膜タブ,尿道エンドピースおよび縫合糸からなる(図2)。患者を砕石位とし,全身麻酔,腰椎麻酔あるいは局所麻酔下に硬性膀胱尿道鏡による直視のもとインプラントを留置する。


    膀胱頸部から1.5cm遠位の前立腺部尿道2時と10時の位置の2本に加えて,必要に応じてさらに遠位の前立腺部尿道2時と10時やその他の位置にインプラントを留置する(図2)。前立腺部尿道腹側の開存(channeling)を肉眼的に確認して手術を終了する。通常,留置に要する時間は10数分である。尿道カテーテルは通常手術翌日には抜去される。

    2 臨床成績

    L.I.F.T. studyは,年齢≧50歳,国際前立腺症状スコア(International Prostate Symptom Score:IPSS)≧13,最大尿流量(maximum urinary flow rate:Qmax)≦12mL/秒,前立腺体積30~80mL,残尿量<250mL,PSA<10ng/mLで,閉塞性の中葉肥大を除く206名の前立腺肥大症患者を対象に施行された国際,多施設共同,前向き,無作為化,単盲検比較対象試験である3)

    被験者は,2:1にPUL群(n=140)と対照群(n=66)に無作為化され,対照群にはシャム手術が施行された。有効性の主要評価項目は治療3カ月後のIPSSの改善度であった。3カ月後のintention to treat(ITT)解析において,IPSSはPUL群では22.2から11.2(-11.1)に,対照群では24.4から18.5(-5.9)に改善した(P=0.003)。5年までの長期の検討においても,IPSSのみならず,QOLスコアおよびQmaxの持続する改善を認めている4)。外科的な再治療を要した症例は5年間で19例(13.6%)であった。また,性機能にも大きな変化はなく,射精障害や勃起障害を新規に発症した症例はなかった。

    3 適正使用ガイドにおける適応対象

    日本泌尿器科学会,日本排尿機能学会および日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会の3学会合同で,UroLiftシステムの適正使用指針が制定されている5)。現時点では,適応対象は前立腺肥大症に伴う下部尿路機能障害を呈する患者で,前立腺肥大症に対する手術療法の適応である患者のうち,全身状態や手術侵襲を考慮して,従来の手術療法(TURP,HoLEPなど)が困難な症例(全身状態不良のため合併症リスクが高い症例,抗血栓薬の内服または血液凝固異常症により術中出血のリスクが高い症例,高齢もしくは認知機能障害のため術後せん妄,身体機能低下のリスクが高い症例)に限定されている。また,前立腺体積が100mLを上回る患者や著明な中葉肥大例には推奨されない。

    なお,実施医はメーカーが提供する講習プログラムを受講する必要がある。

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