皆さん,こんにちは!『Dr.ヒロの学び直し!心電図塾』ですが,連載開始1周年を迎えようとしています。心電図や不整脈のレクチャーは,ボクにとって既にライフワークであり,こうした場があることは日々のモチベーションのひとつとなっています。
2022年(令和4年)4月から,おおむね隔週(月2回)のペースで以下の心電図所見や基本事項などにつき解説してきました。今回は“総ざらい”として,この1年で解説してきたことを振り返ります。
第1回(No.5110) 正常洞調律/Normal sinus rhythm
第2回(No.5112) 洞徐脈/Sinus bradycardia
第3回(No.5115) R波の増⾼不良/Poor R-wave progression
第4回(No.5117) ⼼房期外収縮【頻発性】/Frequent premature atrial contractions
第5回(No.5119) 1度房室ブロック/First-degree atrioventricular(AV)block
第6回(No.5121) ⼼房細動/Atrial fibrillation
第7回(No.5123) 右胸⼼/Dextrocardia
第8回(No.5125) ⼼房ペーシング/Atrial pacing
第9回(No.5128) QRS電気軸/QRS axis
第10回(No.5130) ⼼房粗動/Atrial flutter
第11回(No.5132) 完全右脚ブロック/Complete right bundle branch block
第12回(No.5134) 洞不整脈/Sinus arrhythmia
第13回(No.5136) 左房異常/Left atrial abnormality
第14回(No.5138) ⼼拍数の求め⽅/Calculation of the heart rate
第15回(No.5141) 調律の考え⽅【前編】/Basic cardiac rhythm ― Prequel
第16回(No.5143) 調律の考え⽅【後編】/Basic cardiac rhythm ― Sequel
第17回(No.5145) 洞頻脈/Sinus tachycardia
第18回(No.5147) 交流(ハム)ノイズ/Alternating Current/Hum(ming) Noise
第19回(No.5152) 標準肢誘導/Standard limb leads
第20回(No.5154) 2度房室ブロック①/Second-degree AV block
第21回(No.5156) 右房異常/Right atrial abnormality
第22回(No.5158) 胸部誘導/Precordial leads
第23回(No.5160) 1年総括/Annual review
初回は「正常洞調律」(第1回)でした。何気なく“サイナス”と言ってしまいがちですが,そこにきちんとした根拠を提示しました。洞性P波の条件だけでなく,“正常”(ノーマル)が付くときには,洞結節から心房,房室結節,そして心室に至るまで,電気のシグナルが一定のペースで淀みなく伝達される様子が波形にどう反映されるのか?─個々を暗記するのではなく,意味を理解して下さい。
サイナス(洞調律)がらみの所見は,不整脈を理解する基本ですので,「洞徐脈」(第2回),「洞頻脈」(第17回),さらに「洞不整脈」(第12回)を含め計4回扱いました。洞性P波の極性条件,心拍数,R-R間隔の整・不整のバリエーションから明快に診断できる力がつけば,心電図学習の大きな礎が形成された証拠です。
心電図をどう読んでいくか?…なかなか一筋縄ではいきませんが,最初は「心拍数」(heart rate)と「(基本)調律」([basic]rhythm)からだと思います。拙著でも,これに「R-R間隔」を加えた“3つのR”からの判読を推奨しています。
「心拍数の求め方」(第14回)では,「○~○」のようにあいまいな“範囲”を述べるだけ,または心電計の自動計測一辺倒(“カンニング法”)ではなく,自身でビシッと数値を“言い切る”ための手法を解説しました。
“オン・ザ・ライン”を意識した“はさみうち(等分足し引き)法”や,“(数拍)まとめ見法”そして“検脈法”まで…Dr.ヒロ考案の珠玉のテクニックを今一度体験して下さい!自分で心拍数が計算できることは大きな喜びですし,「60~100/分」から外れた段階で何らかの不整脈診断が必要になるとも認識して下さい。
もう1つの「調律」,いわゆる“リズム”も大事です。これは「調律の考え方」として,前・後編(第15回,第16回)で解説しており,永久保存版です(笑)。
ポイントは,心房と心室の調律が同じであることは“当たり前”じゃない!ってこと。刺激伝導系と各組織の自動能を意識しながら,心房波,心室波の整・不整やレート,波形を見て考えるクセをつけましょう。
いくつか代表的な不整脈も解説しました。まずは,何と言っても「心房細動」(第6回)─エイエフ(AF)は不整脈の“王様”ですよね。R-R間隔,頻脈,f(細動)波の基本3条件を押さえましょう。診断のキーとなる誘導として,何と言ってもV1,時に下壁誘導(ニサンエフ)を優先的にチェックする姿勢も大事です。
これと対照的なのが,「心房粗動」(第10回)でした。「ソドーなら常にR-R間隔:整」というのは実は“幻想”なのですが,まずは整(レギュラー)として,「通常型」(common/typical)と呼ばれる典型的なノコギリ状の波が拾えるようになると素晴らしいです。房室伝導比が2:1のとき,心拍数は150/分前後になっているはずですし,「心房細動」と比べて“オーガナイズ”(organize)した心房波が安定して見える点もポイントです。悩みがちな「心房頻拍」との基本的な違いにも触れました。
最初のうちに扱った「心房期外収縮(頻発性)」(第4回)は,“1画面”(A4サイズ:10秒)に3発以上“PAC”(premature atrial contraction)が登場するのでした。これが連発してくるようになると心房細動や粗動の背景となってきます。2023年は,より基本的な,単発の期外収縮について,房室伝導のパターンごとに解説していきたいと思っています。
「心房ペーシング」(第8回)も“心房調律”のひとつと見なせる点でここに関係してきます。“AAI型”の基本的な作動様式を理解し,ペーシングスパイク,そして人工P波の様子を解説しています。心室(QRS波)に関しては,自己波,ないし「心室ペーシング」で,後者の場合は,“DDD”というモードでした。また,フィルタについても解説しており,できるだけ“入れない努力”をすべきという意図が伝わりましたか?
徐脈性不整脈として,「房室ブロック」も2回扱っています。第5回では,「1度房室ブロック」を扱いました。房室ブロックの中では,唯一QRS波の脱落のない点がユニークですし,心電図を学びたての頃,これが診断できただけでも嬉しく感じた記憶があります。一方,手放しで良性と扱ってよいのではなく,「300ms」(7.5目盛り)という注意喚起点を意識しておいて欲しいと思います。
“節目”(第20回)には「2度房室ブロック①」として,“ウェンケバッハ型”の解説をしました。「モビッツⅠ型」がむしろ“正式名称”だという点は驚きでしたよね。診断方法としては,漸増していくPR(Q)間隔を前方(手前)から順に目で追う“素直法”ではなく,QRS波が脱落した直前・直後のPR(Q)間隔を比較する“落ちた前後法”をよく復習して下さい。
「R波の増高不良」(第3回)は,胸部誘導でV1,V2,…V6と連続的にR波高を意識すればよく,「移行帯」(transitional zone)や「回転」(rotation)の概念と併せて整理しておきましょう。
「右胸心」(第7回)も実際の遭遇頻度はさほど高くないものの,各種試験の類(たぐい)では頻出問題でもあり,扱いました。最大のポイントは,「(肢誘導)上肢電極の左右つけ間違い」との鑑別で,そのうち扱いますが,肢誘導はソックリなので,胸部誘導を見ましょうね,とただそれだけです。肢誘導(右手⇔左手)をあえて左右逆にし,胸部は右側誘導をとることで“矯正”できることも見直しておいて欲しいです。
「完全右脚ブロック」(第11回)はQRS幅が開大する心室内伝導障害のうち最も高頻度で認められるものでした。波形の“なぜ”にあまり拘泥せず,V1とV6という2つの胸部誘導のカタチに着目した“顔認証”ならぬ“波形認証”の感覚で気軽に診断することから始めてみましょう。近いうちに相方の「左脚ブロック」についても解説予定です。
「左房異常」(第13回)は,主にはⅡとV1にフォーカスして,P波形から診断する所見でした。「右房異常」(第21回)とまとめて整理しておきましよう。「負荷」や「拡大」,はたまた「肥大」という用語ではなく,あえて「心房異常」という言葉に留めることが心電図診断としては適切であること,そして,心房の形態学的な “異変”に関しては,心室よりもさらに心電図の診断能は限られるという“現実”を知っておくことで,ある意味,適切な接し方ができると思います。
第18回で扱った「交流(ハム)ノイズ」は,別名“ゲジ眉ノイズ”─この表現につきます。代表的な発生要因を列挙しています。また,対処法としての50/60Hzのハム(AC)フィルタの基本的な取り扱いについても解説しましたので,ぜひおさらいを。
2023年“年始め”には,「標準肢誘導」(第19回),すなわち肢誘導の“左上”3つ─Ⅰ,Ⅱ,Ⅲについて述べました。“心電図の父”たるアイントーベン(Willem Einthoven)の理論を改めて振り返って解説してみました。現在の我々にとっては至極“当たり前”にも思える「12誘導システム」も,すべてはこの双極誘導から始まったと思うと,感慨深いですね。
各肢誘導は前額(断)面の上に乗っており,「QRS電気軸」(第9回)に関する議論もおおむねここで行われます。具体的な数値での求め方の話は後々のお楽しみにするとして(笑),大局的な意味,そして定性的な判定法などをまずはしっかり理解しておきましょう。
そして,前回に扱った「胸部誘導」(第22回)も入念な下調べのもと書き下ろした原稿です。ボクが知る限り国内ではこれよりも詳しく丁寧な解説はないと自負しています(あったらぜひ教えて下さい)。単極誘導の考え方,そして「ウィルソンの中心電極」(WCT)という,生理学で勉強したときにはまったくチンプンカンプンであった内容が,臨床的にいかに重要なものかがわかってもらえると嬉しいです。
12誘導のうち,残る3つは単極肢誘導である「増幅肢誘導」(aV*)ですが,これもまた魅力的な話が満載ですので,2023年内の解説をお待ち下さい。
2023年1月に行われた心電図検定(日本不整脈心電学会)を受検する方々に向けて,当連載を一定期間,“無料公開”するサービスを行いました。想定したよりもたくさんの方に閲覧して頂いたようで,やはり心電図の注目度の高さを反映していると思いました。人気の資格のようなので,ぜひ本連載やDr.ヒロの書籍で勉強して来年以降もチャレンジしよう。
以上,連載の振り返り,ダイジェストをお届けしました。これからも,誌面とともにWEB版もよろしくお願いします。
加えて2022年は,「Dr.ヒロ|えかげますたぁ」として念願のTwitterデビューを果たした年でもありました。SNSに関しては,昨今様々な問題も取り沙汰されていますが,@ekagemasterは心電図や不整脈に関する有益な情報をお届けするアカウントです。ニセモノではなくホンモノ(笑)ですので,どうぞフォローをよろしくお願いします。