非ST上昇型心筋梗塞(non-ST-elevation myocardial infarction:NSTEMI)は,冠動脈内のプラーク破綻やプラークびらんに血栓を形成し心筋の虚血を生じる病態である。心電図上はSTの上昇を示さないが,トロポニンなどの心筋逸脱酵素の上昇を示す。ST上昇型心筋梗塞(STEMI)と異なり,侵襲的治療の適応とタイミングは患者リスクに応じて判断する。
問診が最も重要な診断の要素となる。症状の発現頻度,誘因,持続時間,閾値など必要な項目を漏らさず聴取する必要がある。既往歴,内服歴,ニトログリセリンに対する反応なども重要な情報である。詳細な病歴の聴取によって病態を把握し,治療へとつなげる必要がある。
病歴,胸痛の特徴,臨床所見,心電図,心筋マーカーによりリスク評価が行われている。ガイドラインではトロポニンによる診断およびリスクの層別化が強調されている。時間をおいてのトロポニンの再検査も有用である。
NSTEMIも最終的に経皮的冠動脈インターベンション(PCI)などの血行再建が必要となることが多い。しかし,そのような侵襲的治療に踏み切るタイミングに関しては,患者のリスクによって緊急で施行するか,待機的に施行するかを判断するとされている。基本的に,緊急の血行再建が治療適応となるSTEMIとは少し異なる点となる。「急性冠症候群ガイドライン」ではTIMI,GRACEなどのリスクスコアを用いることが提唱されている1)。
しかし現実には,安静時に症状があるかどうか,心不全症状があるかどうか,トロポニンの上昇がどの程度かなどにより,侵襲的検査・治療のタイミングを決定することが多い。いずれにしても,患者管理においてはPCIが施行できる施設への転送を基本に考える必要がある。急変も十分にありうる病態であることを意識する必要がある。
薬物療法の基本は,急性期の胸痛のコントロールに加え,抗血小板療法と,エビデンスの確立している早期からの強力な脂質低下療法が柱となっている。抗血小板薬の投与は冠動脈造影のタイミングで投与時期を考慮する必要がある。アスピリンはすべての患者に適応となる。アスピリンは冠動脈造影前に投与されるが,エフィエントⓇ(プラスグレル塩酸塩)は造影の結果をみてからPCIを行う段階での投与となる。
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