腸結核は,消化管の結核菌感染症の総称である。肺結核のない原発性腸結核と肺結核に伴う続発性腸結核に大別され,肺結核が減少した近年でも決して稀な疾患ではない。
腸結核は,結核菌(Mycobacterium tuberculosis)が消化管や近傍のリンパ節へ感染することで生じる腸管の炎症性疾患で,クローン病(CD)や潰瘍性大腸炎,腸管ベーチェット病などの炎症性腸疾患との鑑別が重要である。また,近年,関節リウマチや炎症性腸疾患増加に伴う生物学的製剤の投与頻度が増加しており,同剤投与中の結核併発例に注意が必要である。
本症に特異的な症状はない。腸病変の状態により腹痛,下痢,血便,腹部膨満感,発熱,体重減少など,症状は多彩である。無症状で便潜血陽性など大腸癌検診を契機とした内視鏡検査時に,偶然発見されることもある。
ツベルクリン反応検査,インターフェロンγ遊離試験 (interferon-gamma release assay:IGRA)で結核菌の現感染,既感染の確認が可能である。IGRAは結核菌感染に対し,感度89%,特異度98%といずれも高く,BCG接種やほとんどの非結核性抗酸菌感染の影響も受けない。ただしIGRAは,感染後8~10週で陽転化するため結核初期,または基礎疾患や免疫抑制療法によって免疫能が低下した結核患者では,陰性となることもある。
感染症であるため,糞便の結核菌培養,腸病変部からの生検材料を用いた検査(結核菌培養,結核菌PCR,抗酸菌染色,組織内肉芽腫)で結核菌を証明することが診断確定のために最も重要である。なお,病理組織学的に乾酪性肉芽腫を証明することも診断に有用である。Paustianらは,①組織培養による結核菌の証明,②病変部からの結核菌の証明,③乾酪性肉芽腫の証明,④腸間膜リンパ節からの結核菌の証拠と手術所見で典型的肉眼所見の記載がされていること,のうち少なくとも1項目が満たされているものを腸結核確診としている1)。しかし,培養検査,組織学的検査の陽性率は10~46%程度と高くない。したがって,以下に示す典型的な画像所見を呈し,IGRAの結果などを総合的に判断し,腸結核が強く疑われる場合は,抗結核薬を投与し一定期間後に病変の治癒あるいは改善を確認することで治療的診断を行うこともある。
X線造影検査や内視鏡検査では輪状・帯状潰瘍,輪状狭窄,萎縮瘢痕帯,腸管の変形(回盲弁開大,腸管短縮,偽憩室様変形)が典型像である。本症の病変はリンパ組織が豊富な回腸,特にパイエル板や回盲部,右側結腸の腸間膜付着側に好発し,遠位側結腸の罹患率が低いことも特徴である。活動性腸結核は黒丸分類(Ⅰ型~Ⅷ型)を用いて肉眼形態を分類する。この分類は腸結核の進行に伴って典型的な活動性病変が形成される推移を示しており,初期像から高度病変に至るまで多彩な潰瘍形態に分類されている。また,腸結核は自然治癒傾向があり,未治療でも活動期と治癒期の所見が混在することが特徴である。このため,様々な活動性の潰瘍や潰瘍周囲に萎縮瘢痕帯,炎症性ポリープ,回盲弁の開大などの慢性経過を示唆する所見の併存を確認することも診断の一助となる。
治療前に腸管病変とともに肺や胸膜病変,リンパ節など腸管外病変の確認が必要である。腸結核は他の結核菌感染症と同様に,感染症法第2類感染症に分類されており,治療開始に伴い速やかに保健所に届け出る必要がある。
本症とCDはいずれも回盲部を好発部位とし,非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を検出することがある疾患である。両疾患のX線造影・内視鏡所見は異なっているが,非典型例では鑑別困難な症例も存在する。CDは自己免疫が関与している疾患で,免疫制御療法が行われることが多い。特に,抗TNF-α抗体は結核菌感染症に対して禁忌であり,鑑別に難渋する場合は,腸結核としての治療を優先させるなどの慎重な判断が必要である。
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