起立時に過度な血圧低下をきたす状態が起立性低血圧である。仰臥位から立位になると,約500~800mLの血液が胸腔内から下肢や腹部内臓系へ移動し,心臓への静脈還流血液量が約30%減少して心拍出量は減少し体血圧も低下するが,健常者では圧受容器反射系が適切に機能して血圧の過剰な低下を抑制している。圧受容器反射系に異常をきたすか,循環血液量が不適切に低下した状態では起立性低血圧を生じる。
仰臥位または坐位から立位への体位変換に伴い,起立3分以内に収縮期血圧が20mmHg以上低下するか,または収縮期血圧の絶対値が90mmHg未満に低下,あるいは拡張期血圧の10mmHg以上の低下が認められた際に診断される1)。
起立性低血圧の起こりやすい状況を理解しておくことが,治療方針を考えるために必要である。起立性低血圧の原因として,体液量減少や血管拡張作用を有する薬剤に起因するものが最も多い。特に高齢者では圧受容器反射系の機能低下等のために,薬剤による血圧低下作用が生じやすい。また,朝の起床時や食後・運動後にも起こりやすい。特に,食後に起こる起立性低血圧は高齢者に多く,食後の腸管への血流再分布が原因とされる。したがって,これらの起こりやすい状況を回避し,内服状況の確認や内服薬の見直しを必ず行うことが最も重要である。
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