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冠攣縮性狭心症[私の治療]

No.5181 (2023年08月12日発行) P.47

辻田賢一 (熊本大学大学院生命科学研究部循環器内科学教授)

登録日: 2023-08-14

最終更新日: 2023-08-08

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  • 心外膜冠動脈が一過性に異常に収縮した状態が冠攣縮であり,異型狭心症や安静狭心症,労作性狭心症,急性心筋梗塞や心室細動など,幅広い病態スペクトラムを持つ。閉塞血管のない虚血性心疾患であるischemia and no obstructive coronary artery disease(INOCA)の原因として,冠攣縮が注目される。

    ▶診断のポイント

    冠攣縮性狭心症の診断基準1)では,冠攣縮性狭心症発作を疑う症状があり,発作時の心電図所見で明らかな虚血性変化(12誘導心電図で,関連する2誘導以上における一過性の0.1mV以上のST上昇または0.1mV以上のST下降か陰性U波の新規出現)を認めれば,冠攣縮性狭心症確定とする。

    発作時の心電図変化が陰性もしくは検査非施行の場合でも,冠攣縮薬物誘発試験や過換気負荷試験などで冠攣縮陽性所見を認め,参考項目(図1)を1つ以上満たしても冠攣縮性狭心症確定となる。発作時の心電図変化が境界域で明らかな冠攣縮陽性所見を諸検査で認めない場合や,発作時の心電図変化が陰性もしくは心電図検査非施行で明らかな冠攣縮陽性所見を諸検査で認めない場合でも,参考項目を1つ以上満たしている場合は,冠攣縮性狭心症疑いとなり,臨床的には確定例と疑い例を併せて冠攣縮性狭心症と診断する。

     

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    治療の基本は「危険因子の是正」と「薬物治療」である。

    喫煙は明らかな危険因子であり,禁煙は必須である。飲酒については,大量飲酒後数時間経過してから発作が起こることが多いため,節酒する必要がある。顔面紅潮や嘔気,頻脈などを呈するアルコールでのフラッシング反応の既往がある者では,遺伝的なALDH2の欠損が疑われ,少量のアルコールでも冠攣縮発作が生じる可能性があるため,注意が必要である2)。なお,有酸素運動が,血管内皮機能,酸化ストレスや炎症の改善作用を介して発作を抑制することが報告されている。しかし,早朝の運動は冠攣縮誘発の恐れがあるため,午後に行うなどの指導が必要である。

    Ca拮抗薬は薬物治療の第一選択薬で,血管平滑筋細胞へのCa2+の流入を抑制することで冠攣縮を抑制する。夜間~早朝にかけて冠攣縮発作を認める場合が多いため,夕食後あるいは就寝前投与が推奨されるが,症例により生活リズムが異なるため,発作時間帯に合わせた処方設計を心がける。治療に用いられるCa拮抗薬にはベンゾジアゼピン系やジヒドロピリジン系があり,単剤で著効しない場合には複数を組み合わせて用いる。

    ニコランジルは選択的な冠動脈拡張作用と抗冠攣縮作用を持つ薬剤で,Ca拮抗薬と異なる薬理作用であるため,Ca拮抗薬抵抗性の症例に併用する。

    冠攣縮の発作時には,ニトログリセリンの舌下錠もしくはスプレーの口腔内噴霧が有効である。

    スタチンは脂質改善効果のほか,内皮機能改善作用,抗炎症作用,Rhoキナーゼ抑制作用を有し,冠攣縮を抑制する効果が示されている。

    【治療上の一般的注意&禁忌】

    β遮断薬は心筋の酸素需要を低下させるため,器質的狭窄合併例にはよい適応となるが,β遮断薬の単独投与は,相対的なα受容体刺激により血管収縮を促し冠攣縮を惹起する可能性があるため,長時間作用型Ca拮抗薬を併用する。

    また,硝酸薬の血中濃度が一定であると耐性が生じやすいので,耐性を避けるためには休薬時間を置くことが重要である。発作の出現状況を詳細に聴取し,冠攣縮の活動性が最も高い時間帯に硝酸薬の十分な血中濃度が維持できるように,投与時刻や投与量を決定する。

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